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岩登り(クライミング)と登山の共通点と平地での歩きとの違い
岩登りと登山は共通点がありますが、普段の生活で行われる平地の歩きとは別物です。
体力の割に山で疲れてしまったり、バランスが悪いと感じている方はこの点から修正が必要です。 |
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ポイント1 どちらも一本の足で立つ瞬間が平地の歩きよりも長く、これを「軸足」とする事が共通点 |
岩登りは小さな足場に丁寧に足を運ぶ必要があるため、体を支えている軸足で立つ時間が長くなります。
登山の歩きは上や下にある次の足場へ足を運ぶため軸足で立つ時間が長くなります。
このように登山でも岩登りでも、「軸足をつくる」という概念が必要です。
これに対し、平地の歩きは片足を上げた瞬間に体が前方へ移動し、着地と同時に重心がその足へ移動します。このため一本の足で立っている時間がほとんど無くなります。
北鎌尾根の岩場での登り
左足にしっかりと立っているからこそ、右足を動かすことができます。
片足に立っている時間を長く作ることができるほど、岩場では安定した動きになります。
燕岳、大天井の縦走路
平坦に近い道ですが、片足で立っている瞬間です。
この様に平坦で次の足場が安定している時は、片足で立つ時間が短くても、大きな問題にはなりません。
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ポイント2 登山の歩きと平地の歩きは別物 |
登山中に平地の様に歩くと、ザレ場やガレ場、浮石が多い時など、足場の悪い時には足を置く場所を選ぶことができないため、バランスを崩しやすくなります。
また岩場では一本の足に立つ時間が短いほど、丁寧に足を動かすことができずバランスを崩しやすくなります。
登山で足場が不安定になった途端に歩くのが不安定になったり、岩場や梯子での行動が苦手な方は、「登山の歩き」と「平地の歩き」を混同していることが原因です。
登山の歩きは岩登り(クライミング)と同類であり、平地の歩きとは全く別物です。
(階段で一段飛ばしで歩くとよく解ります)
明神岳縦走での下り
ガレ場が続く場合はしっかりと一本の足で立つ時間を作らなくてはなりません。
北鎌尾根のガレ場
足場が不安定な場合こそ一本の足で立つ必要がありますが、ガレ場などではどうしても一本の足で立つことが難しくなります。
そんな時は無理をせず手を使うことも必要です。
(この時は、靴が硬すぎるため路面に合わせて靴を安定させることができていません。ガレ場や岩場には柔らかい靴が適しています)。
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登山のための岩登り講習
登山のためには岩登りで何を練習すれば良いのでしょうか。
また、岩登りを練習する際に何を意識していると良いのかを考えてみましょう。
誰もが一回の練習で効果を出すの難しいかもしれません。しかし以下の考えで練習をしたり、普段の歩きで意識すると効果が高くなります。 |
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ポイント1 一本の足で立つ時間を意識して長くする |
岩登り講習では、一本の足で立つ時間をしっかりと作ることを意識付け、練習をします。岩登りが上手になれば、登山での歩きも上手くなるはずです。
岩登りを練習すれば登山の歩きが「自動的に」上手になるのではなく、一本の足で立つ時間を長くできる体の使い方(上半身の位置、体の向き、つま先の向き、足の立ち方)や、筋力を付けることで、岩登りを登山に活かすことができるようになります。
岩場で一番最初に問題になるのは小さな足場、不安定な足場に立った時に、一本の足に立っている時間を長くできるか?という点です。
小さな足場では足が滑りそうになり不安ですが、クライミングでは「スメアリング」という技術でこれを解決しています。
スメアリングと体の使い方を練習中
小さな足場に立つ際、つま先を少したわませて立ちこむ「スメアリング」は、クライミングシューズでも登山靴でも必須技術です。
高性能なクライミングシューズで立ち方と体の使い方を身に付ければ、岩稜バリエーションルートや縦走路に出てくる岩場でも安心して行動できるようになります。
小さな足場に立つ際、登山靴やクライミングシューズを段差に引っ掛けようとするのは間違いです。段差に乗せようと思ってもその足場が小さい場合、靴が弾かれるように滑ってしまいます。
この場合は靴をたわませて、その反発を利用して摩擦を作り出すことが必要です。
これがスメアリングです。
スメアリングは靴をたわませて摩擦を作り出すのですが、ただ単純にくつをたわませれば良いのではなく、体を岩から意図的に話すことで岩に足を押し付ける力が生まれますが、これを利用しなくてはなりません。
登山中の岩場や登山だけでこのスメアリングを覚えることは難しいことです。
歩く登山だけではこの考え方が発想できないだけでなく、安全を確保できていない場所で行うことは危険を伴います。
これは、スメアリングが危険という訳でなく、新しい「技術」をいきなり現場で行うことにリスクを伴うという事です。
岩登りという点で、性能が低い登山靴で新しい技術を覚えるよりも、性能の高いクライミングシューズでスメアリングの概念、技術を身に付けたほうが効率が良くなります。
スメアリングは摩擦を大きくすることができる技術です。
登山中にはザレ場など靴がスリップしやすい時にも役に立つ技術です。
小川山でのクライミング講習
足元をしっかり見て足を動かすのは、クライミングでも登山でも同じです。
ちなみに、登っているのは久野の母。この時70歳です。
確保しているのはその友達、60歳女性です。
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ポイント2 重心を片方の足に乗せるための上半身の位置を意識する |
一本の足で他つ時間を長くするためには、上半身の位置や体勢、向きなども重要となります。
そもそも足は左右に分かれているため、右足一本で立っている時と、左足一本で立っている時では体の位置や体勢、向きがそれぞれ違うはずです。
しかし平地を歩く場合、常に前を向いて、どちらの足に乗っていても上半身が動くことなく歩いているはずです。
上半身が動いていない方が体が安定していると思いがちですが、しかしそれは歩いているばしょが水平で安定しているためです。
上半身が動かず安定しているように見えるこの平地の歩きを、山で行うと不安定さを作る原因となります。
岩登りの場合、右足に乗り込むときには右上に立ち上がり、左足に乗り込むときには左上に立ち上がることが基本です。
これは岩登りの場合、登山に比べて一歩の段差が大きいためで、上半身を傾けることなく真っすぐ上に上がろうとすると足の上に体が乗り切らず、逆に体が倒れやすくなります。
登山中にバランスが悪い方は、このように足の上に体が載る方向に立ち上がらず、まっすぐ前、あるいは真上に上がろうとしているためです。
以上のように岩登りを練習する際には、手で体を安定させるだけでなく、立ち上がる際に右、あるいは左方向へ意図的に上半身を傾けたり、回転させることで、体が安定する位置を意識すると、クライミングが上手くなりやすく、登山にも好影響があります。
1本の足で体を支えるための、体の使い方を練習中
一本の足でしっかりと立つためには、体をうまく使わなくてはなりません。
体が真っすぐのままでは、左右に分かれている片方の足に乗ることはできないため、体を曲げたり、傾けたり、あるいは体を回転させる必要があります。
これがクライミング独特の「ムーブ」の考え方であり、登山だけでなく、将来クライミングを続けていく場合の大きな武器になってきます。
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岩登りのその他の効果
岩登りをすることで安全に対する意識をかえましょう |
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困難と危険を分けて考える |
岩登りを経験すると、登山中のリスクについて客観的に見えやすくなります。
岩登りは困難が故にミスをしやすくなります。しかし、ミスが危険に繋がらないようにロープでの確保を行います。
この当たり前の行為が、登山の安全に活かされなくてはなりません。
クライミングは墜落を前提とした行動です。
ロープによるバックアップなしには成り立たず、それゆえ思い切った技術勝負、自分の限界に挑むことが可能となります。
また、技術勝負をするためには、ロープでの確保だけでなく岩が硬いことが前提となります。
岩が硬い時には思い切って技術勝負をしても構いません。
しかし岩が脆い時には、できる限りその場所を避ける必要があります。自分の技術を発揮することができないだけでなく、そこで行動すること自体が危険に晒されます。
登山、クライミングでは困難と危険を分けて考える必要があります。
困難はミスをしやすいですが、ミスに対する安全対策をしていれば、大きなトラブルに繋がることは避けることが可能です。
しかし、危険はどんな対策をとっても既に危険である以上、それは避けなくてはなりません。
技術勝負ができるような硬い岩を登っていれば、逆に勝負をしてはいけないような脆い岩を知る事ができます。
登山中に岩場で何処を登るべきか、どのラインが安全かを判断するためには、自分の技量がどれぐらいあり、岩場の難しさがどの程度で、どの岩が硬く、脆いかを判断できなくてはなりません。
西穂・奥穂縦走路
岩が脆いところでは、自分の技量がどれだけあっても、落石や足場、手がかりが崩れることは防ぐことができません。
自分の能力とは別の原因でトラブルが起こることを(実体験として)知っていれば、登山中でもリスクを探すようになると思います。
登山で落ちる人はなかなかいませんが、岩登り中には足がスリップしたり、手が疲れてしまい、ロープにぶら下がる人は多くいます。人が簡単に落ちるものだと知っておくだけでも登山に活かせると思います。
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