八ヶ岳、小淵沢に住む山岳ガイド、加藤美樹・久野弘龍が、ヨーロッパ・シャモニやドロミテ、国内の雪山、冬山、バックカントリースキー、夏山、登山・クライミング教室、ガイドを行っていま
す。国際山岳ガイド連盟・日本山岳ガイド協会所属

 2009年 8月他 八ヶ岳・無雪期 小同心クラック        

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夏の小同心クラック:山行報告


2009年8月9日(日)

今年は一体どうしたことなのか?青空の見られない日々が続きます。
余談ですが、我が家の家庭菜園も、日照不足でジャガイモやトマトが全滅です。どの苗もせっかく実をつけていたのにもかかわらず、根本から腐って枯れてしまいました。

土曜日も午後からは雷雨の予報。
今日も怪しい空模様に、小川山は諦めて、十分時間のとれる室内ジムへと移動する。

午前中のクライミングジムは駐車場も空いている・・けど、あれ?この車って。
やっぱり同じ思考回路の仲間が講習に来ていた。

あちらさんは早速ルート壁で登っていたが、こちらはあくまで今日が初クライミング。
ジムも初デビューってご夫婦である。

明日の小同心までに腕が張ってしまっては話にならないので、まずはロープワークからスタート。そして確保、マルチピッチの手順へと移行していく。

外でのクライミングも気持ちいいが、いつ降るかもしれない雨に脅えながら慌てて流すよりは、じっくり理解を深めていくほうが良いだろう。

マルチピッチに対する、何となくの理解ができたところで、いよいよ壁を触ってみる。
ホールドの向きに対する体の振り、そして何より腕に頼ることのない足の置き方。

クライミングに腕力が必要なのは傾斜が垂直を越えた場合であって、通常山でのルートは垂直以下の岩場なので、一番重要なのは足!
足場をよく見るために腕を伸ばし、視界を確保して、それによって確保された空間の中で足を上げていく。


「ピラニア」のオーナーです(まさにお手本、腕を伸ばして楽な姿勢で空間を作っています)
オーナーもスタッフも、解らないことは丁寧に教えてくれます

もちろん傾斜のある壁でも、重要なのは足を上げるスペースの確保。
腕はしっかり伸ばしながら足場を見て、次の動作に入るまで引きつけない方が楽です。

ごくシンプルな動きであっても、これまでの3点確保を信じて来た体では、その大胆な動きを実践するのは難しい。

いきなり出来なくたって良いのです。怖いのは当たり前。
ロープワークもクライミングも、1日にしてなるものではありません。

最も大切なのは、これまでと違った世界を知ることによって、高まる安全意識です。

小さな一歩は、やがて大きな一歩に繋がります。

いきなり人工壁で傾斜の強い壁や長い壁を登るのは、強度がありすぎるので、明日の小同心で実戦的に使う、凹角でのホールドを「引く」ではなく、「押す」動きの勘を掴んでいただきまし
た。
脆い八ヶ岳の火成岩では、重要なポイント。もちろん穂高などの縦走でも、引っ張ってしまえば簡単に岩が剥がれることは希ではありません。

周囲の使用可能なホールドを増やせるので、これを覚えられれば、岩場で使う力も軽減され、ずっと楽になります。
岩登りは、チカラワザではありません。

突き詰めてより困難な上限を求めれば、最後はパワーになってしまうのですが、山には必要ないでしょう。


さあ、明日は八ヶ岳を日帰りで小同心クラックに登ります
(左/大同心、右が小同心の岩峰です)

さて、夕方までジックリと「ピラニア」に居て高速で小淵沢へ帰着。
夕食は「フライ屋そま」に行きました。

小淵沢観光のメインストリートとも言える、「道の駅」と温泉「スパティオ」の向かい側の小道を、「アルソア」の横から入った小さなお店です。

観光地で、多くが良いお値段の店が並ぶ小淵沢にあってはリーズナブル。
実は救助の時に、地元長坂署の若手お巡りさん達から教えてもらった店ですが、これなら確かに若者でも満足のいくボリューム。
千切りキャベツはお変わり自由で、ヒレカツが700円+ご飯に小鉢に味噌汁300円。
これでもかなり満腹なのに、揚げなすカレーと、MIXシーフードフライカレーを注文したT夫妻は、苦しみながら食べてました。

あとは我が家で入浴後、バタンキューで眠り、翌朝は3時起きの3時半出発です。
夜半まで降り続いた雨は、何とか上がってくれたようです。

白み始めた北沢の林道を歩くうち、パラパラと雨粒が落ちてくる。
朝は時雨れるし、実際朝方の降水確率も少しはあった。
「気のせい・・気のせいってことにしよう」

小同心は八ヶ岳の遙か稜線近くであるため、登るその時にさえ降っていなければ、アッという間に乾くのだ。
アプローチは4〜5時間、まだ十分に時間はある。

赤岳鉱泉には多くのテントが張られていて、小屋は朝食で賑わっていた。
水を補給して、更に急登が始まる大同心稜へと足を向ける。

行けども行けども急斜面が続くのは北岳バットレスに同じく、やっぱり辛いのはアプローチ。

大同心稜の抜け口に上がる沢筋には、カモシカの白骨体があった。
この周囲には糞も多く、よくカモシカがうろついているはずだ。

ようやく珍しい虫取りスミレの株が見られる取り付きに到着。
1ピッチ目はトラバースが入るため、ロープがスタックしやすい。

そこで登りながら何度も流れを整えるのだが、それでも今日は一本が完全にスタックしてしまった。
このまま登ってもらうわけにもいかないので、懸垂で降りて流れを整えピッチを切る。


無我夢中で3ピッチ目終了点間近まで来た、T夫妻(お互いを気使う夫婦愛が美しい・・・)

結局3ピッチになったが、今日の目的はマルチピッチを登るための概ねの理解と練習だから、まだ天気の持ちそうな空の下だったら構わない。

懸念した雷雨もなく、無事に垂直部を越えたら、横岳山頂の登山者の視界に入った。
もうこの頃から「あんな所に人が!」とかいう声は聞こえていたが、稜を近づくに従って、その騒ぎは大きくなった。

私が山頂に着いたところでは、ファミリー登山の子供から年輩のお爺さんまでが大勢で待ちかまえていて、更にフォローして登ってきたお客さんも、流石にこれでは恥ずかしそう。


ラストの岩場を登り、今越えてきた小同心の頭を背にする
(大声援の歓迎を受け、照れ笑いのお二人です)


でも皆一様に言葉にするのは
「あんなとこ登るなんて、命懸けだわねぇ」
「信じられないね、度胸がある」
「とても私たちじゃあり得ないな」
等々のセリフである。

私にしてみれば、
「ロープなしに頼れるものは鎖だけ」
「手を離せば、足を踏み外せば終わり」
だなんて、縦走をして来られた皆さんの方が、よっぽど命懸けの行為をしていて、度胸があると思うのですが・・・

ある男性が言いました
「わしゃぁ、ここからの岩場さえ下るのが怖いよ」

それは当然の意識です。
怖いと思う、正常の意識を持たなければ、登山はとても危険なのものになってしまいます。
それを恥ずかしいと思う意識の方が、より危険を招くものであることを、クライミングすることで知るべきなのでしょう。


多くの人で渋滞した、横岳周辺の鎖場(小同心には誰一人居なかったのに)




2008年7月28日


小同心の頭より:一番手前が横岳山頂、右後方には(左)小同心(右)大同心の影法師が並んでいます
ここまでたくさんの急な斜面や岩壁を詰めて、頑張って来ました



 花の小同心クラックへ、今回はご自身のペースに合わせた歩きでの、マンツーマンガイドです。

 68歳とはいえ、筋トレにジョギングとトレーニングを欠かさないIさんは、辛い大同心稜の直登もせっせとこなしてきます。
 人間、歳ではありません。気合いです!

 
夜明けを迎える阿弥陀岳               オダマキは清楚な美しさです


 午前4時。
 昨夜は激しい雷鳴と雨に見舞われた赤岳鉱泉でした。まだ暗い未明の道は、雨と夜露でビッショリと濡れたままです。
 今日も雷の予報が出ているため、うんと早立ちしたものの、ムッとする湿気に包まれ暑苦しい。夜明け前の風が吹き始めてホッと一息つけました。

 
 葉に虫を、しっかり捕らえた虫取りスミレ(これだけは、乾燥した稜線で見るには希な花です) 
 2ピッチ目を登る(イワオウギやチョウノスケ草の咲く岩稜。でも、ついでに高度感もたっぷりで、花を見る余裕は無い?)


 
ガンバ!もう少し!                    横岳山頂が霧の晴れ間から現れました


 
赤岳や阿弥陀岳も姿を見せ始めます               岩陰には、虫取りスミレが群落を作っていました


 
遙か展望荘を見渡すにも、一般道からとは違うアングルです     花の入れ替わりの時期で、チシマキキョウが開き始めていました


 一般道のある横岳山頂へと飛び出すと、そこで休んでいた大勢のギャラリーに拍手喝采で迎えられたIさんはとても嬉しそうでした。
 昔から登山はしておられたのですが、「こんな岩が登れるとは思ってもみなかった」とのこと。何事も、やってみれば出来るのです。

 
後続パーティーも「小同心のカシラ」へと上がってきました        さぁ、これからはコマクサのお花畑が迎えてくれます


 
株が新たに増えることは無い、「白花コマクサ」だって、ちゃんとあります
(例えみつけても、グリーンロープの先へは入らないように。土砂が流れます)


 
一面のコマクサです


 
今が盛りの透明感のある花弁             登ってきた小同心から横岳への稜線が望まれます



硫黄岳山頂は、子供だらけの平日とは違って、また多くの登山者で賑わっていました



2007年8月26日(日)

夏の八ヶ岳、定番ルート「小同心クラック」に出掛けました。
小同心クッラックとは赤岳鉱泉付近から見上げると、顕著にそそり立つ大同心と、横岳山頂の前に重なる小同心、二つの岩峰のうち、その小同心の方を登るルートです。大同心よりは岩は
やさしく、しかし実は大同心より高さを持つのが小同心です。

 日帰りのHさんとは美濃戸口6時集合で、前日に沢登りをしたAさんとは赤岳鉱泉で合流する。朝から快晴の空に、遠く大同心と小同心がそびえたちます。う〜ん、取り付きはまだ、遙か
彼方なのだ。

 
大同心稜を詰めて、大同心基部から小同心へのトラバース(実はここが一番怖い)

 
霧も次第に晴れてきます(でもそうすると・・下が見えてくるんですね〜)

 
ついつい真剣勝負です!(山頂からは、垂直の登攀シーンは見えないけれど)

 
最後はやっぱり、カッコよく決めたいよね?何たって、ゴールは横岳山頂なんですから


夏の終わりの「トウヤクリンドウ」

下界の猛暑をよそに、八ヶ岳には確実に秋が近づいています。






 八ヶ岳での夏のクライミングは一般的に知られていないが、脆いと思われる礫岩も、冬によく登り込まれているルートに関しては、その脆い岩が落とされ、独特の素晴らしいホールド(手が
かり)やスタンス(足場)を提供してくれています。
 ロケーションも申し分なく、北岳バットレスや前穂北尾根、滝谷といった有名ルートに負けず劣らずの素晴らしい展望、そして花の多さです。
 スケールとしては先の北や南アルプスに譲ったとしても、クライミングの質としては勝る登りがいのある岩場。そして何より花の多い八ヶ岳でも、さらに一般道を離れることによってしか見ら
れないお花畑。これらは全て今まで一部の人によってのみ知られてきたエリアだと言えるでしょう。
 厳冬期にはオーバー手袋とアイゼンを使ってのみ登られる小同心ですが、夏は快適にクライミングシューズ、そして素手で登れます。
酷寒に耐えて登った先の美しい樹氷や、雪の結晶も魅力ではありますが、夏なら草花を愛でる余裕や、稜線に出てからのコマクサの大群落に会える楽しみといったものがあります。
 
 ここでのクライミングでは技術的に準備が必要なので、まず1日目はしっかりとした岩登りの基本を学びます。八ヶ岳の岩はホールド、スタンスが豊富ですが、その分傾斜はきつくなり、た
だ前にある岩を掴んで引っ張るだけでは登れません。その代わりに足で登ること、手で岩を引くばかりではなく、押して登ることを練習します。
 これは何も八ヶ岳に限ったことでは無く、どこでも「手で押す」ことを覚えることによって、一般縦走路での下りなどで、体が岩から離せることになり、それによって視野が広く、また使える足
場も多くなる利点があります。 
 この他にも、傾斜のある岩では「体の振り」を覚えることによって、格段に岩登りが楽になるものですが、これまで長年岩登りをやってきた人であっても、それが傾斜の緩い岩場での練習
であれば、この「体の振り」は必要とされず、案外身に着いていなかったりするものです。
 また、初めてのアルパインクライミングでは、初めに登るトップの確保も覚えなければなりません。これはトップの命を預かる重要な役目なのでおろそかには出来ません。そして次のビレイ
(確保)点に着いた時には、今度は自分の安全を確保する術も必要です。
 こういった練習を繰り返し反復することによって、初めて山でのクライミングへ出ることが出来るのです。
 バリエーションルートでのクライミングは、縦走などの「ただ連れて行って貰う」山行ではなく、「お互いの命を確保をし、一緒に行く」山行なのです。

 2日目は長い1日となるので、早朝からのスタートです。星空のもと、緊張感とヘッドランプの灯りの中を歩き出します。
じきに白々と明け始める空は今日も暑い1日を思わせますが、朝の空気はまだひんやりとして、北沢の風も頬に心地よく感じられます。
 赤岳鉱泉で水を補給し、いよいよ大同心稜の急登にかかるのですが、これが行けども行けども真っ直ぐ登っていくかと思うような、直登の尾根。ですがそれが辛くなってきた頃には樹林帯
を抜け、周囲の展望と可憐な花達が現れます(ミヤマアケボノソウ、ミヤマナデシコ、ウメバチソウなどの群落が見られました。また6月下旬には、ツクモグサが大群落をなしています)。
  

 這い松の間から望む大同心は実に威圧的で、その南に更に高く聳える小同心も、決してやさしそうには見えないゴツゴツとした姿を見せています。この大同心の基部から、小同心の取り
付きまでは気の抜けないトラバースとなるため、ここでヘルメットやハーネス、ザイルをつけてから移動、更に取り付きで靴を変えてスタートです。
 

 1ピッチ目は少し左上してここからクラック(割れ目)へ入っていきます。完全に体を奥へ入れてしまえば動きはとれません。昨日習ったことを頭で復唱。岩を手で押し、外へ体を出しましょ
う。
 2ピッチ目についたらすぐに自分のセルフビレイ(自己確保)をとるのを忘れずに。落ち着いて動かないと、折角の練習も焦って全て忘れてしまいます。ロープの整理が出来たら今度はトッ
プの確保に移り、トップが登ったらまた自分の番です。ビレイの解除、支点の回収などやることを整理しつつ動きましょう。
 

 2ピッチ目もなかなかの難関。特に最後は傾斜も増してくるので思い切った動きが要求されます。このピッチさえ終われば、メインの岩場は終わりますが、それでもまだ気は抜けません。
ウルップ草の穂先や、千島キキョウ、シコタン草などの咲き乱れる草地を歩いて更に最後のピッチを登れば、そこは横岳の山頂。頂で休む登山者は突然現れたあなたにビックリすることでし
ょう。
  
 横岳から硫黄岳にかけての稜線は、素晴らしいコマクサの群落です。コマクサなんて燕岳のほうが有名じゃない、なんて言ってるあなた!
 それは通じゃありません。灰褐色の礫地に咲くコマクサと、硫黄岳の噴火の際に出た赤黒い礫地の上に咲くコマクサでは、織りなす色彩のコントラストが、全くと言って良いほどの違いを見
せるのです。
 写真はありませんので、ぜひご自分の目で確かめに出かけて下さい。コマクサのシーズンは長く、6月下旬から8月中旬まで楽しめます。
 白花コマクサもありますよ。でも撮影の際は充分注意してください。礫地では土砂が流れやすく、繊細なコマクサの株は簡単に流されてしまいます。


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山岳ガイド ミキヤツ登山教室は、夏山、冬山ともに国内では八ヶ岳、穂高・槍ヶ岳、剣岳、北岳、小川山、瑞牆山など、海外ではヨーロッパのシャモニ、ドロミテで山岳ガイド、登山教室、雪
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