八ヶ岳、小淵沢に住む山岳ガイド、加藤美樹・久野弘龍が、ヨーロッパ・シャモニやドロミテ、国内の雪山、冬山、バックカントリースキー、夏山、登山・クライミング教室、ガイドを行っていま
す。国際山岳ガイド連盟・日本山岳ガイド協会所属


 2011年 4月  八ヶ岳・積雪期 赤岳東稜        

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 2011年4月30日

 この日は富士山なども含めた北アルプス各地にて、事故の多発した1日でした。

 主にGW前半で起こった事故により、白馬岳では2名の雪崩による埋没死(後+1名)。富士山では1名の滑落死(後+1名)。劔岳、常念岳、蝶ヶ岳、槍ヶ岳にて各1名の疲労凍死が発
見され、鹿島槍ヶ岳では1名の落雷による死亡。そしてこの八ヶ岳でも1名の滑落死という、事故多発で幕開けしたGW・・・・その為か後半戦の劔沢には、雷鳥だけではなく、閑古鳥の鳴く
静寂感が漂っていた。

 さて、そこまで悪い予報は出ていなかったけれど、確かに荒天が続き、雪の状況は明らかに悪かったであろうGW前半。
 当初予定していた白馬主稜は日本海側に位置し、同じ日本海側に通って滑り続けていた私達には概ねの雪の状況が掴めていた。傾斜的にもこういった雪では、いくら尾根筋だとは言
え、まず取り付きと最後の頂上直下の雪崩れの危険性が高まっているのは否めない。増して日程的にも下山路は不安定な雪が溜まったままの白馬大雪渓に取らざる得ない以上、予定通
りの催行をすべきではないだろう。

 そこで晴天率が高く、晴れ間で雪が安定したと思われる八ヶ岳の、厳冬期だと容易には入れない東面へ計画を変更した。
 4月と言えば近年は暖かな長雨が続くことも希ではないが、この春はとても肌寒い日が続き、降水量こそ多くなくとも、八ヶ岳にもまだ豊富な雪が残っていた。赤岳の東面にもまだ充分な
残雪が壁に残っていることは、久野が麓から前日の視察で確認してくれている。

赤岳東壁を望む

中央下部から上へ大門沢右俣を遡り、谷が狭まっている奥の二俣は夏だと10m大滝になるが、今は残雪を詰めて登ることができる
正面左寄りの三角形が第一岩峰、その上が第二岩峰から竜頭峰へと続く


まだ未明の大門沢(サンメドウズ清里スキー場へ上がる舗装路の突きあたりの、県界尾根登山口がスタートです)


雪の少ない年には現れるはずの、大滝の狭いゴルジュ(喉)も、雪に埋まって快適に越えられる


どんどん高度を稼いで来た

 
硬いデブリのブロックの向こうには、主峰の壁が見えてきた


谷筋から東稜へ取り付くには、広い雪の斜面を左から巻き気味に登り、ちょっとした乗っ越しをして第一岩峰の上へ出る

 この辺りから背後の雲行きが怪しく、しかも天候の急激な悪化を告げる巨大なレンズ雲が現れているではないですか?
「これはマズいな・・」と先を急ぐも、ロープの先にいる肝心のMさん、運動不足でかなりお疲れとあって、どうにもこうにも足が上がらない様子です。


他の方はとっても元気!サンメドウズのゲレンデが、背後の遙か下に遠望できます
(実はコレ、全部雪庇の上なんですが・・雪稜登攀でもあまり気温の高い日には歩きたくないですね。この日はかなり寒かったです)


第2岩峰は通常だとやはり左のルンゼ(谷筋)から巻くが、今回は硬く締まった雪が続く右のルンゼをダブルアックスで登った


ここは左右どちらから巻こうが、一本のピッケルでは厳しい傾斜と硬い氷雪が長く続き、、仮に雪が少なくとも草付きの壁となるため、出来ればアイスアックス2本か、最低限でも補助のアッ
クスが欲しいポイントとなる


中間支点はダケカンバから取る


再び尾根に戻ると這松が現れ、竜頭峰に出た・・・途端に西面は、凄まじい地吹雪!強烈な風に晒された厳冬期そのものの八ヶ岳に姿を変えた
足下もカリカリの氷に変わる

 普通に歩くことさえままならない主稜線を、強風に耐えて歩く一般登山者と合流して山頂に立ち、そのまま天望荘へと逃げ込んだ。

 頂稜からは天望荘の周辺を、この強風の中で、県警ヘリが尾根筋に近づこうと、何度もトライしている姿が見て取れる。近づこうとするのだが、その都度強風に煽られて断念している。これ
では助けられる側は兎も角も、助けるはずの側も必死だろう。
 稜線付近は既に、かなり危険な風速となってきている。

 天望荘の中に居てさえ、小屋を揺るがす凄まじい風、そして混乱する長野県の遭対無線。県内各地で多発している事故に対処しなければならないお巡りさんも、大変な苦労である。

 この事故の当事者は、軽アイゼンで小屋まで登ってそこで下山できなくなり、「ピッケルを貸してください」と小屋のスタッフに道具を借りたものの、やっぱり地蔵尾根を滑落して行ったのだ
そうだ・・・
 「ピッケルを借してください」と頼んだのは、本人が危険を感じたからであって、それは決して悪いことで無いだろう。

 しかし!そこまで登る前に、戻れるのかどうか気付け!

 幸い落ちれば、東面なら大門沢、南面なら立場谷へ、一直線に滑落する文三郎尾根ではなく、かつて滑落者は続出しても死者は出していない地蔵尾根だったので、この軽アイゼン登山
者が命を落とすことはなかったが、この30分後に続いた横岳の滑落者は助からなかった。

 気分的には小屋から一歩も出たくない状況ではあったが、県界尾根に戻るべく天望荘からトラヴァースに入る。上部の鎖場のある急斜面を避けるためでもある。斜面は時に積雪で柔らか
く、時に強風で硬く、前爪を蹴り込みながらのトラヴァースが延々と続く。

 やっと県界尾根に出ても鉄のハシゴがあるため、2度懸垂下降を繰り返して、漸く樹林帯の穏やかな尾根歩きになった。
 この時、最後のハシゴ下のルンゼに、軽アイゼンが転々と落ちていたのには疑問を感じ、見通せるところまで降りてみたが、コレが何故なのかは結局解らないままだった。あの下に、誰も
居ないことを祈る・・・


登ってきた赤岳東稜と、赤岳山頂が見通せる県界尾根

 最後の尾根から大門沢への急下降は、雪が途切れがちでなおかつ所々凍結しており、冬靴で歩くのが辛い。
車さえ回せればやはり、登山道のよく整備された西面へ降りるのが、一番楽な選択肢であろう。

 ともあれ厳冬期の西面とはまた全く別の顔を見せてくれる、東面からの八ヶ岳。赤岳東稜は、私の好きなルートの一つです。黒部の谷を想わせる静寂、そして急斜面の壁に美しい雪稜と
変化にも富んでいて、やっぱり面白かったですねぇ






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