1日目:小淵沢集合〜美濃戸〜赤岳鉱泉 到着後氷雪講習を行います
2日目:赤岳鉱泉〜地蔵尾根〜赤岳〜文三郎道〜行者小屋〜美濃戸〜小淵沢解散
氷雪講習の内容 山行報告はこちら
硫黄岳のコースと赤岳のコースの違いについて
硫黄岳と赤岳のコースの違いですが、技術的なレベルが赤岳の方が高くなります。
「雪山はフラットフッティングが基本」といわれますが、これは「足を水平に保つことが基本」の間違いで、これをしっかりと修正する目的で硫黄岳のコースを行います。
体力的に余裕のない人は赤岳のコースで行うアイゼン講習、そして翌日の登山で足を水平に保つことすらできなくなるため易しいコースを追加しました。
しかし、普通に登山できる方、体力に余裕のある方は赤岳のコースで大丈夫です。
もちろん「足を水平に保つ」ことの重要性、方法なども赤岳のコースで行います。
講習内容
私たちの行う雪山講習は真の雪山技術を身に着けていただくために、現場で通用する技術をお伝えします。
教科書的技術ではなく、机上の空論になりがちな滑落停止などの事後の技術より歩行技術を重視しています。
雪山技術をしっかりと身に着けたい方はご検討ください。
机上の空論になりがちな技術とは…。
・ステッピング(足を水平に置けるステップを作ること)を伴わないフラットフッティング
・フラットフッティングがアイゼンワークの基本であるいう内容
・滑落停止技術
・下りは前向きが基本
・アイゼンを引っ掛けないためには、足を左右に離して歩く
…挙げ始めると、まだ出てきてキリがありません。 |
今回の雪上歩行講習の狙い
運動(スポーツ)するにあたって、人の骨格を無視した無理のある動きは運動能力が低下してしまいます。
山の世界でも同じで、知らないうちに無理のある動きを続けてしまいがちです。
山で無理のある動きをしてしまう原因は、普段の生活での歩行方法を山でも行ってしまうためです。
「体に無理をさせない骨格を意識した歩き方」とは何か。
ネタバレですが…、「足を水平に保つことを意識して歩く」ことです。
人間は水平な場所でしか立っていられない骨格を持った生き物です。水平な場所で生活し、水平な場所を前に進むように特化した骨格を持った生き物です。
人が移動・運動するには水平な場所の方が有利で、山など不整地での行動は不得意なのです。
このため人の生活圏では、道路は少しでも傾斜を小さくし、上下に移動する場所には水平な場所が連続する「階段」を設置するのです。
では山ではどうか。
夏山では登山道を階段状に整備したり、急登をジグザグに登る事で傾斜を緩くすることで、歩きやすくしています。
逆に、登山道が階段状になっていなかったり(ザレ場のような場所)、急登を直登しなくてはならない場合は、とても歩きにくく疲れるはずです。
人は足が水平にならなくては行動が難しくなるのです。
だから少しでも足が水平におけるような工夫をしながら歩く必要があるのです。
普段の生活での歩行は、既に水平な場所が設置してあるという条件で行っているのですが、山では足を水平に置ける場所が限られてしまいます。
そんな状況で普段の歩きを山で行うとどうしても無理が生じてしまいます。
さて、ここまでお付き合いしていただいた方で、雪山の経験や知識がある方は疑問が生まれてくるはずです。
登山は「フラットフッティング」が基本ではないのか?
答えからいえばNOです。
フラットフッティングが雪山歩行の基本ではありません。
現実的に正しいのは、「足を水平に保つ工夫をして歩く」事が基本です。
フラットフッティングは斜面に足裏全体を接地させることであり、足を水平に保つことではありません。
水平な場所で足裏全体を接地させれば足は水平に保てますが、斜面で足裏全体を接地させると足は水平を保つことができず、人は不安定な状態になります。
この状態で歩行、運動しろといわれても、なかなか難しいと思います。
これは人の骨格(水平な場所に立つことに特化している)を無視した行為です。
雪山も含めた登山ではフラットフッティングが基本と従来からいわれてきましたが、「足を水平に保つこと」と「フラットフッティング」を混同しており、それらを伝える側がその事実に気が付いていないことが問題となっています。
正しくは「足を水平における工夫をして歩く」事が基本であり、それができない時のみフラットフッティングをする必要があります。
ではなぜ混同されて来たのか。
古い時代、ヨーロッパ帰りの登山者が「フレンチテクニック」という名前でフラットフッティングを広めました。
氷河の多い彼の地では、当時のアイゼンでは斜面にフラット(斜面に足裏全体を付ける)に置くことでしか、アイゼンを効かすことができなかったのです。骨格を無視してでもアイゼンを効かせることに重きを置いた技術です。
このためこの技術は一部の登山者しかできず、このテクニックを使えることは優秀な登山者の証でした。
一部の人にしかできない技術が憧れになって、フラットフッティングが基本として広まってしまったのでしょう。
しかし、今の技術、道具では骨格を無視することなく、楽なアイゼンの効かせ方、歩き方が可能です。
人の骨格を無視してまでフラットフッティングをするのは、運動(スポーツ)においては能力を下げる行為であり、登山においては危険を招く行為となります。
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話が長くなってしまいましたが、今回の雪山歩行講習では足裏を水平に保つ技術を使って、雪山を歩く練習をします。
具体的には「ステッピング」をしっかりと身につけていただきます。
ステッピングとは雪上でステップを作りながら歩く行為ですが、傾斜が緩い場合は足裏が水平に置けるようなステップを作ります。
そしてその水平なステップに足裏全体を接地させる「フラットフッティング」を行ない、アイゼンをしっかりと効かせて歩く練習を行います。
本格的なアイゼン歩行では更にフロントポインティング(つま先だけのステップ)、スリーオクロック(40度程度の斜面を登るテクニック)等が必要となりますが、今回のステップを作りながらのフラットフッティングが基本となります。
これをしっかりと身につけて、次のステップへ進みましょう。
滑落対策=転ばない歩行技術
滑落停止技術は現場ではほとんど役に立ちません。
なぜなら、雪山は地形が複雑で均一、平坦な斜面は意外に少なく、凹凸や岩があるため、滑落すると跳ねたり、転がったりするため岩に激突するか、何もできずに落ちて行くというのが実際の現場です。
これは雪山を本当に多く登ってきた者であるほど知っている事実であり、滑落停止技術で助かった人は殆んどいないことでもわかることです。
ですから私たちの行う雪山講習では、このような事実を踏まえて、「机上の空論的な滑落停止技術」よりも「現実的な危機回避である歩行技術」を重視して行います。
転ばない歩行技術を基にアイゼンを使おう
私たちが行う雪山講習で伝えたいのはアイゼンの使い方だけではなく、正しい歩行技術を基にアイゼンを駆使して雪山で行動する技術です。
では正しい歩行技術とは何か。
詳しくはこちらの歩行技術を見ていただくとわかるのですが、歩く際に重心を左右の軸(右足と左足)に正確に移動させる動きこそが「転ばない歩行技術」であると言えます。この歩行技術を妨げない範囲でアイゼンを駆使することで、雪山で滑落しにくいアイゼンワーク・歩行技術が成り立ちます。
しかしこの歩行技術を無視し、フラットフッティングなどアイゼンの使い方のみが従来から伝えられてきました。
いまでもそれらが当然のように伝えられててきていますが、間違っています。
私たちの行う雪上講習では歩行技術を説明、練習しながらそれに合わせてアイゼンを駆使する方法をお伝えします。
実際のアイゼンワーク
以上のような基本的な山の歩行技術、そして考えのものとに実際のアイゼン歩行技術を練習します。
・ステッピングを伴ったフラットフッティング (20度程度までの緩傾斜帯、あるいはトレースで使用)
・スリーオクロック (トレースが無い傾斜30〜40度程度の中・急傾斜帯で使用)
・フロントポインティング (40度以上の強傾斜帯、岩と雪、氷のミックス体で使用)
・2種類のトラバース技術
・サイドステップ
・積極的なピッケルの使用方法
詳しくは氷雪講習の内容
それでも滑落停止技術を学ぶことを捨てられない方へ
滑落停止技術が成功するには30メートル以上の綺麗な斜面が必要です。
だから滑落停止の練習は富士山やスキー場などのキレイな斜面で皆が練習するのです。
つまり、ある限られた条件でしか成り立たないうえに、生死を分けるパニック状態でこれを成功させることは、どれだけ練習を積んでもかなり確率の低い技術であるといわざるを得ません。
モチロンそれでも練習をするのは無駄ではありませんが、多くの時間を割くのは、効率が悪いと言えます。
つまり、滑落停止技術は雪山に入るにあたって習得する技術としては優先順位を下げたほうが雪山での安全を図る効率が良くなります。
自動車教習所では運転技術を練習するのに特化して、事故時の救助、脱出技術やファーストエイド技術を行ないませんが、もし自動車教習所が事故後の対策を先に行うのであれば、それはかなり間違った考えです。
言い過ぎかもしれませんが、雪山講習会、雪上講習で滑落停止技術を優先して行うのと同じと言えます。
私たちはそんな滑落停止技術よりも、もっと伝えて行かないといけない技術を知っています。先に伝えて行かないといけない技術があるからこそ滑落停止の優先順位を下げざるを得ません。逆の場合は伝えることが無いからでしょう。
※滑落停止技術をしっかりと、学びたい方は好条件で練習ができる4月に行うのでご検討ください。
その他のリスク対策
雪山では他に、雪崩、低体温症、凍傷などのリスクがあります。
モチロン一般の登山でも起こり得るリスクではありますが、これらは無理な行動を含めて、山スキーや冬季クライミングで特に起きやすい事故であると言えます。
これらのリスクを減らすには知識だけではダメで、「知識を行動にどのように活かすか」という事が重要です。
どれだけ学んだかとか知識があるかというよりも、それらを行動の判断にどのように使うかという、登山者の意識次第とも言えます。
雪崩対策として埋没者の捜索訓練をしても雪崩を避けることはできません。
雪崩のメカニズムを知ったとしても、それを現場でどのように判断するかということまで理解しておらず、勘違いした判断をすれば雪崩を避けることはできません。
凍傷、低体温症も同じです。
私たちの行う二日間のこの講習では、登山者の意識はどのようにあるべきかという事をお伝えします。
ちなみに…。
雪崩対策としては埋没者捜索を行う方がいますが、雪崩を避けるという意味では効果はなく、雪崩対策全般としてみても効果が薄いといえます。
凍傷対策は雪山での生活技術、つまり正しい装備、行動、リスク管理ができていればかなり防ぐことができ、低体温対策もこれらに体力アップを計ればかなり防ぐことができます。
いずれにせよ、私たちの講習会ではこれらの登山者の意識改革を含めて、登山者の意識のあり方を皆で考えていきたいと思っています。
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