常に状況の変化する山に置いての最優先事項は、速度、そして一つひとつの事柄を、確実に行う正確性にあります。
ミキヤツでは、静荷重である終了点でも、動荷重の掛かるメインのカラビナ以外の、全てのカラビナに至るまで安全環付気カラビナを用いるなど、スピードを無視し、無駄なギアを増やすなどという、机上の空論になりがちなシステムは教えません。
速度における「無駄」は、極力省き、かつ安全性は損なわない為に省いてはならない、適切な道具の操作が求められるのです。
バックアップの更にバックアップ、それは必要ですか?
そこでピッチを切らないことは?また逆に、何故そこでピッチを切るのですか?
全ての事には理屈があり、変わりゆく事柄に、暗記したマニュアルのみでの対応は不可能です。
多くのクライミングをしても、そこを理解せず同じことを繰り返すのでは、山での想定外な事態には対応できません。
先ずは基本的な岩場でのロープワークや確保講習、山のクライミングでも必要なマルチピッチのシステムを学びますが、それらは実際に登る流れの中で理解できます。
如何に効率よく、早く安全確実な支点取りや、終了点作りが出来るかは、常に動きを予測し、考えながら動く必要性があります。
場所は参加する方のレベルに合わせ、登るだけでいっぱいいっぱいになってしまわない、あくまでも余裕をもって学べるレベル、または時間内での岩場の選択をさせていただきます。
全体を通じて解説書などからは解りにくい、マルチピッチのロープワークと、その流れを理解する。
マルチピッチ中で行う、確保、その解除、自己確保の取り方、ロープの手繰り返し、ギアの引き渡し、懸垂下降とそのバックアップ等。
余裕をもって登れる易しいルートを登り、その実践の中で、これら一連の流れを、まずはざっくり、総合的につかんでみましょう。
クライミング、そしてマルチピッチを登っていくうえで、以下のクライミングの取り組み方、考え方を参考にしてください。
ガイドと行くのではなく、ご自身でマルチピッチに行くための最低条件は「登れる」ことです。
マルチピッチのシステムを身に付ければ行ける、というのではなく、システムをスムーズに行なうためにもとても重要です。
どの程度登れば良いか?と言うのは愚問で、登れれば登れるだけ安全、ロープワークも楽になrます。
ちなみに僕は5.11aが登れるまで、山岳会ではマルチへ行くことを禁止されていました。30年も前の話ですが。
5.11aを登るためにはクライミングにかなり集中しなくてはならず、当然結果がでない=フォールを繰り返すのですが、その結果得られたものが大きかったです。
登り込むことで得られる事を重要度の高い順にあげます。
・実際にフォールを止める事を繰り返す(高いグレードになるほど、練習でない実際の不意落ちを1日に数え切れないほど止める事になります)
・実際に自分がフォールする事が多い(練習でないフォールを繰り返すことで どうやって落ちたら危なく、何故人は落ちるかを理解できます)
・クライミング能力が高くなる
・クライミングに自信を持てる
ロープワークで苦労するのの要因は、「一般論として」以下の事が原因になりがちです。
つまり、クライミング能力に自信が持てず、支点をたくさん取ってしまったり、フォールの距離を小さくしようとしてランナーを長くすることをためらったためでしょう。
クライミング能力、経験は、ロープワークに対してかなり影響を与え、多くの方が考えているよりも、それははるかに大きいといえます。
「ランナウト」という言葉がクライミングではありますが、これは知ってのとおり、ランニングビレイの間隔が長いことです。
しかし、このランナウトという言葉を知っていても理解している人は少なく、ランナウトは「する」ものではなく、ランナウトは「させる」というのが正解に近いです。
つまり、支点の間隔は短いほど安全なのですが、その短さ、あるいは短くしようとした結果、ロープの流れが悪くなる等のトラブルを招くことになります。
ロープの流れが悪くなる事はクライミングに置いてとてもリスクな高くなっている状況ですが、これを避けるためには支点の間隔を長くする必要があるのです。だから「ランナウトさせる」となります。
・ランニングをたくさん取る事でロープが屈曲し、流れが悪くなる。
・無理にランニングを取る事で、パンプしたり疲れてしまい、フォールに繋がる。…怖いですね。
・ランニングを取る事に時間を使い過ぎて、遅くなる。…遅くなれば悪天につかまったり、新たな危険を招くことになります(危険=時間×リスク)
これらのことを避けるために、「ランナウトさせる」という発想が必要です。
例えば山のルートの場合はそれほど難しくないので、適度にランナウトさせることでロープドラッグなどのリスクを防がなくてはなりません。
ただ、落ちたらやばい場所、落ちる可能性が高い場所ではしっかりとランナーを取るべきで、そうでない場所としっかりとメリハリを付けることでランナウトさせることが重要です。
また、登れるようになってから支点構築などを身に付ければ良いのですが、満足に登れないうちから身につけようと思っても、実践を伴わないので机上の空論になってしまったり、「危険を招く過剰な知識」になってしまいます。そしてそんな方たちが多くなってきているのが事故の原因です。
そういうわけで、しっかりと登れるようになることがマルチピッチで楽しむための大事な要件です。
ちなみに、ジムも含めて毎週クライミングをしていれば、1年で5.11aが登れる、あるいは登れそうになることが目標で、それに近づけない場合はクライミングの何かが間違っていると言えます。
僕らが行うクライミング講習、クリニックで伝えている事を要約して書いておきます。
外岩とジムでの登りの違い、そして対処するヒントになると思います。
ジムで登る時、特にボルダリングの時に意識すると良いと思います。
登っているのになかなか上手くならない方は以下の事が原因になりがちです。
・外岩での足の使い方が苦手
ジムでの足場は飛び出したホールドにのる事が多く、足遣いが雑(爪先に載れていない)になりがちです。
体の左右への移動や体勢を維持するために「かき込み」を多用しがちです。
また、スメアリングが苦手な方も多く、これは「ソールの接地面を増やして滑らないようにする技術」と間違えて認識し「踵を下げて」行っているためです。
教える方たちが間違えていることが問題なのですが、実際には「ソールをたわませて、その反発を利用して滑らないようにする技術」です。反発が強いほど滑りにくくなり、このためには踵を上げなくてはなりません。
(スメアリングをするためには体を外に出さないといけないため、踵が下がって見えることが間違いの元です。)
・手がかりの効かせ方といろいろなムーブを組み合わせていない
手がかりは握り込む力で効かせるのではなく、体の位置で効かせることが基本です。このため腕は伸びた状態で手がかりを保持する事が必要です。
もちろんガストンムーブなどの例外もありますが、クライミングのムーブの多くは、この腕が伸びた状態を作るために行っていると考えると良いと思います。
ホールドを保持できる体の位置のままスムーズに体を上方に移動させ、その結果次の手がかりを取る。このための合理的な動きが「ムーブ」です。
逆に腕を曲げることで保持する手がかり、ムーブ(ガストン、ガストンムーブ)もありますが、いずれにせよ手がかりを保持し続けたまま合理的に動く「ムーブ」を身につける事がクライミングの上達に繋がります。
そして、このムーブの理解度が高くなると、外岩で「手がかり」や「足場」を見つけやすくなります。
そこで行うべきムーブがあると、手が出せる位置が限定され、次の手がかりを見つけやすくなります。
また、多くのムーブは手がかりを保持するために行っています。このため保持しようとする手がかりの向きや掛かり具合によって、行えるムーブが限定されるため、足場の場所が特定しやすくなります。
・つま先の認識が違う
クライミングは基本的に足のつま先で立って登るものです。
これは腰から下の関節を一つでも多く使う事で、上半身を使う事なくバランスを取るためです。そしてバランスを取る目的は足で体重を支えるためです。
もし体全体を大きく使ってバランスを取ると、手がかりを効かせる体制を維持できなくなり、握り込みによる保持に繋がり、登れなくなってしまいます。
逆に言えば難しいルートはこの状態になってしまうということでもありますが…。
つま先を使うと言っても、ジムだけで登っている人の多くは「つま先」の認識が甘いことが多いです。
つま先とは足の爪の下、指の腹?で立つことであり、指の付け根ではありません。
部屋の巾木、つまり1センチ程度の足場に立つ為の立ち方が、クライミングの立ち方です。
これをするためには指が伸びたままでは不可能で、シューズの中で指が曲がって?立っている?状態になり、この状態だとシューズのたわみの反発力が大きくなり滑りにくくなります。
そしてスメアリングもこの状態で行う技術です。
また、正しいつま先立ちをすると重心が体の前方へ移動し、壁から引き剥がされにくくなり、つまり、腕や指の負担を減らすことになります。
もちろん最初の目的である、上半身の位置を変える事なく保持した体勢を作り、維持することもできます。
練習はしたくは無いけれど、ロープワークはやってみたいというのは、早計に過ぎません。
岩登り、クライミングとは、「石(岩)の上にも3年」忘れないうちの週一度の継続した努力で、より多くの動きを身につけるものです。
それは全てのスポーツにも、通じるものです。
今や室内ジムの出店ラッシュ(閉店も相次ぎますが)のお蔭で、その努力も3年ではなく一気短縮し、3か月ほどの集中期間で、多くの方に上達可能なチャンスの訪れる時代となりました。
先ずはジムで登る時に、これらのことを意識して、集中した期間を登ってみましょう。
登れないから楽しくない。ものは、登れれば当然ながら、楽しくなります。
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