八ヶ岳、小淵沢に住む山岳ガイド、加藤美樹・久野弘龍が、ヨーロッパ・シャモニやドロミテ、国内の雪山、冬山、バックカントリースキー、夏山、登山・クライミング教室、ガイドを行っていま
す。

 2004年 9月  北アルプス・無雪期 剱岳・北方稜線から裏剱と下ノ廊下        

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 付 サプリメントと水分補給について
 2004年9月23日〜26日

 剱岳は多くの方が想像する以上に大きく、懐の深い山です。
 この山は、尖った頂上から長大な尾根をタコの足のように大きく延ばしています。しかもそのほとんどの尾根が岩稜で、よいバリエーションルートを提供してくれています。
 「岩と雪の殿堂」という言葉がこの山に使われることがありますが、しかし、この言葉はよく見る剱岳(写真)で見えていない部分のことでしょう。源治郎尾根よりむこう、長治郎谷、八ッ峰、
三ノ窓、小窓の辺り。さらに、山の向こう側に当たる池ノ谷(いけのたん)側や小窓尾根 方面。深い谷に残る雪と鋭い岩稜などがこの方面に多いのです。
 今回の山行は、岩と雪の殿堂、剱岳の最深部をのぞきに行くコースです。
 剱岳の北方に延びる主稜線、北方稜線の岩稜を縦走し、八ッ峰やチンネの脇を通り、三ノ窓、小窓を経由し、裏剱で知られる仙人池へ向かいます。さらに、黒部川の下ノ廊下の核心部を
縦断し黒部ダムに至ります。
 この山行前には必ず、「高熱隧道」という本を読んでおくと、山行が楽しくなります。

 1日目:室堂〜雷鳥沢〜別山乗越〜剣山荘
 2日目:剣山荘〜別山尾根〜剱岳〜北方稜線・池ノ谷乗越・三ノ窓・小窓〜小窓雪渓〜池ノ平小屋(平ノ池)
 3日目:池ノ平小屋〜仙人池〜阿曽原温泉
 4日目:阿曽原温泉〜下ノ廊下上半部・十字峡・白竜峡〜黒部ダム

 1日目は剣山荘までの短い行程。ガスの中、時々見える雷鳥沢の紅葉を見ながらのんびり歩く。佐野さん以外の参加者はみな剣山荘で合流だ。立山を縦走する方もいれば、大日岳を下
から縦走して来る方もいる。やはり皆強者だ。
 

 2日目は朝4時30分の出発で、前剱のガレ場登りをうっすらと明るくなる頃に歩くためだ。
 剱岳の一般ルートでは、カニの縦バイ、横バイなどの鎖場が難所として有名だが、実際にはこの前剱のガレ場での登下降の方がかなり危険だ。実際に何件も事故が起きている。原因は
落石、滑落。
 とにかく、このような危険箇所は早く抜けるのが得策だ。歩くのを速くするのではなく、休憩をなくすことで時間を稼ぐ。
 剱岳頂上には7時10分頃到着。
 7時30分にはヘルメットを被り、ハーネスを付けて北方稜線に向けて出発する。

 ここから、北方稜線に向かう無謀登山者と一緒に行動することになる。ヘルメット無し、地図、ガイドブック無し、事前の調べも無し。しかし、彼は言ったそうだ。
「ガイドさん(僕のこと)が行けるって言ったから」
 誰がそんなことを言うか!僕は聞かれたからこう言っただけだ。
「ロープは無くとも登れるが、安全の為には必要です。落石の危険があるのでヘルメットは絶対必要です。あなたはないから辞めた方がいいですよ。道も分かりにくし、トレースもほとんど無
いからルートファインディングが大変です。地図も必要です」
「いずれにせよ、辞めた方がいいですよ。」
 
 彼は行ってしまった。しかし、とんでもない所を登ったり、まったく違う方向へ行こうとするので、結局我々と一緒に行動することになった。
 彼は何処までこの危険な状況を認識していたのだろう。確かに落ちたり、落石を起こしたりしていない。
 しかし、もし我々がいなかったら、彼は何処に行っていたのだろう。少なくとも、その日のうちに小屋には着いていないのではないか。だから、ツェルトを持っていなかったら二度と家には帰
れなかっただろう。夜はずっと雨が降り続いたのだから。

 ここで人の批判をするのはよくないし、彼にはほんとうに申し訳ないが、しかし山に登る人には知っておいてほしい。
 たまたま登れたことを、自分の実力で登れたと判断してはいけない。技術的になんとかなって、問題なく下山できたからといって、それを自
 分の実力だと思わない方がよい。まして、彼のように、途中で人に頼ったのであれば尚更だ。人がいることでルートが解ったのなら、人に聞い
 ていなかったとしてもそれはダメだと思う。
 登山は遊びであっても、簡単に生命の危険にさらされる時があります。だから、自分の実力は厳しく見た方がいい。間違っても遊びなんかに人生をかけてはいけないと思う。
 スリルがなくとも山は楽しめるし。


 北方稜線の始まりは、脆いガリー、岩稜の下降から始まる。ほんとうに脆い。ルートはおおむね稜線上で、大きく巻いたりすることはない。
 しかし先をしっかりと見極めて進まないと簡単に行き詰まる。無理をすれば行けないこともないが、とにかく岩が脆いので無理はしない方がよい。行けないと思ったら面倒でも登り返して別
のルートを探した方がよい。
 長治郎の頭とのコルからは正面にスリングがぶら下がっていて、ルートかと思うが、コルから踏み跡を進み一段上がったところからすぐ右に出て(トレース有り)、長治郎谷側のガリー状を
上がると簡単だ。
 脆いガリーを上がり、そのまま稜線の長治郎谷側を進んでゆく。
 稜線に上がったり、長治郎谷側を巻いたりするが、池ノ谷側を進むことはない。また、長治郎側を行くといっても、稜線から5bから10bぐらいの所だ。

 一カ所、バランスが悪いところがあり、残置ハーケンにかかったスリングを頼りにトラバースするところがある。ここを通過するとすぐに池ノ谷尾根の頭だ。
 ここまで来ると、八ッ峰がすぐ目の前にあり、遠近感が狂うほど迫力がある。眼下、右手は長治郎谷。左手は池ノ谷が望め、左後ろを望めば剱尾根が鋭く駆け上っている。
 
 池ノ谷尾根の頭から池ノ谷乗越までの下降が最も危険なところだ。落石に中止しながら下降する。すぐにルンゼを下降し始め、左の岩稜に移り、下降する。再びルンゼに入り、池ノ谷乗越
まで下降する。
 いずれにせよ、細かくルートを修正しないと、落石を起こしたり、行き詰まる。

 池ノ谷乗越は長治郎谷を真っ直ぐ上がったところであり、八ッ峰が駆け上ってくるところでもある。
 ルートはこの先、左手に曲がり、池ノ谷ガリーを下降することになる。長い長いガレ場の下降だ。
 落石が起きるが、とんでもなく大きなものを起こさない限り、落石のスピードが着くことはない。踏み跡もあるのでそれを上手く追いながら下降すると良い。最初はど真ん中を。途中で左に
移り、また下の方で右に移るようにして下降した。
 注意する点は、途中に大きな岩があるが、そのすぐ上で落石が起こると、その岩の上ではスピードが着くので、岩の下にいると危険ということだ。
 いずれにせよ、落石の巣なので、はやく降りた方がよい。休憩など絶対してはいけない。

 下りきったところが三ノ窓だ。
 三ノ窓は昔からチンネ登攀のベースになっていて、テント場も沢山ある。目の前に小窓の王(南壁)が聳え、とっても素敵なところだ。

 ルートは、いったん池ノ谷側に下降するように進み、小窓の王の基部を左上するように登ってゆく。正面から見るととんでもなく急に見えるが、それほどのことはない。ただ、落石には注意
が必要だ。
 
 登り切ると小窓が見えてくる。しかし、小窓に直接降りるのではなく、いったん下降し始めてから、小窓の頭方面に進み(左手にトラバースしてゆく)、主稜線に合流するようにして小窓に下
降する。
 湿ったガリーを下降しきると待望の小窓だ。小窓雪渓が眼下に緩く下っている。
 

 ここでちょうど時間は12時すぎ。休憩をとれるところでは長くとったのでちょっと遅れ気味か。しかし、なかなか来られないところなのにすぐに進んでゆくのはもったいなさ過ぎる。
 小窓でもしっかりと休憩する。
 
 小窓雪渓は傾斜も緩くアイゼンは必要なかった(しかし9月上旬頃にはここまでの下降でアイゼンがあった方がよいと思う)。クレバスが大きく空いているので、注意しながら下降する。


 小窓雪渓からは左手の岸に上がることになるので、注意しながら進む。
 右手(右岸)に顕著な滝(ショボくない、立派な滝)が見える辺りから左の岸に上がる。ちょうど、小窓から距離にして300bばかり下降した辺りだろうか。
 
 左の岸(左岸)への登り口はガイドブックにあるスラブではないので注意が必要だ。
 左岸に上がると、昔の鉱山道が水平に続いている。しばらく水平に進み、途中、ジグザグに登ってしばらくで、平ノ池が見えてくる。池ノ平小屋だ。
 
 今日は池ノ平小屋に泊まることにする。仙人池ヒュッテが混んでいると思ったのと、天気が安定しないからだ。頂上付近での雲の観察から降り始めは14時から15時と呼んでいたら、ほ
んとうに小屋に着いた14時30分頃に降り始めた。しかも、寒冷前線の通過だから、降り始めると一気に強い雨になりますよと言っていたら、ホントのそうなった。
 久野株、5円高。でもここまで来るのにルートを(ほんのちょっと5b戻ってもらっただけ)間違えたから、今日の取引は50銭高で終了。
 小屋に着く頃からガスがおり初めて、小屋に着いた時には景色も悪くなってきた。裏剱から八ッ峰が見えたのはこの時だけだった。


 池ノ平小屋は小さな小屋で、なかなか素敵だ。薪で沸かしたお風呂にも入れます。晴れていれば最高のお風呂ですが、今日はあまり展望はよくありません。
 袴田さん、似合いすぎ!


 池ノ平小屋の食事はカレー。でも、南アルプスの南アルプス市(市・村営)の小屋と違って、おかわり自由。味もいけてます。
 小屋の主人は若い(若そう)ご夫婦。頑張ってます。
 

 小屋は30人ほどで一杯になる小屋だったが、この日は天気予報も悪かったこともあり、15人程度。布団一枚に一人で快適だった。雨は夜の間中降り続き、トタンの屋根はドラムとなっ
て、心地よい音を聞かせてくれた。なれない人にはただの雑音だったかも。
  
 翌3日目はガスって周りは見えないが、雨はあがっていた。今日の行程は阿曽原温泉までで、およそ5時間の予定だ。しかし、ずっと下降が続くので、膝には注意、注意。

 最近、僕も膝の調子が悪く、サプリメントなるものを摂りだした。
 まず、コンドロイチンとグルコサミン。これを1日2〜3回摂取。運動前と後にはアミノ酸(BCAA)、運動後と1日に2〜3時間おきにはグルタミン。
 ポイントはグルタミンで、何でも成長ホルモンの分泌を促すそうだ。これは一回で多く摂っても吸収しきれないそうで、2〜3時間おきに摂ることになる。これに合わせて運動後のアミノ酸を
摂れば、筋肉がつきやすくなり、故障の修復、疲労回復に役立つそうだ。
 ちなみにグルタミン、もしくはグルタミンが入ったサプリメント(アミノバイタルなど)は水と一緒に飲まないほうが良いらしい。グルタミンは水と混ざることによって変質してしまうからだそうで
す。ただ、体に入ってからはどうなのかは不明ですが・・・。

 とにかく、上述のサプリメントを使用することで、故障予防、疲労回復を計っている。
 効果は・・・あります。
 間違いないと思う。いつもクライミングジム(1日5時間以上、週3回ほど)へ行くと、次の日はかなり疲労が残っていたのが、最近は指の痛み以外はほとんどなくなっている。今回の山行
でも、かなり効果があった。行動中は疲れない。朝も快適。

 あと、今回の山行(最近ずっとだが)で注意したのが、給水。
 「シャリバテ」という言葉があるが、ほとんどの方は脱水症状をこの症状だと勘違いしている。だいたい、シャリバテなんてのはそう簡単には起こらないものです。
 給水は汗をかいた分、素早く摂ることが鉄則。なぜ素早くかというと、一気に水を摂っても体が吸収しきれないからです。これは水だけでなく、どんなものでも一緒です。
 理想は、10分おきに一口ずつ。でも実際は休憩時、つまり1時間から2時間おきに水300t。これでは汗をかいた分を吸収できないのです。汗など水分を失ったのが100tとして、吸収
できるのは80t程度。残りの220tはオシッコや汗で出てしまうということです。
 そこで使用するのが、ドリンキングチューブ、つまりホースです。山用品屋に売っています。
 これに水ではなく、スポーツドリンクとバーム(アミノ酸)を入れて10分おきぐらいに口にします。すると、不思議なほど疲れません。また、次の日に疲れが残りません。
 また、これの方法にはまだメリットがあります。まず給水と同時に若干のエネルギー補給が出来る。脂肪を上手く燃やす程度のエネルギーでしょうか。この方法で給水をしている時は行動
食はあまり摂らずとも行けるはずです。僕は減りました。
 次のメリットが、喉が渇きにくくなること。10分おきに摂れば喉が渇かないと思われるかもしれないけど、ペットボトルでスポーツ飲料を摂ると、10分おきにとっても喉の渇きを感じるので
す。
 ペットボトルで摂ると口全体に甘みが広がって、しばらくすると乾きを感じてしまいます。しかし、チューブを使うと、喉に直接水が入るので、口の中が甘ったるくならないのです。
 ホースを出して歩いたり、それを口にするのに抵抗があると思いますが、一度試してみてください。とにかく快適。周りの人はほとんど気にしていないですよ。それよりもフラフラになって歩
いている方が気になってしまいます。

 で、3日目。阿曽原温泉までの下りはとにかく長い。しかも、昔の道と違って大きく高巻く箇所があり、実際のコースタイムより時間がかかります。
 今回も湿度の高い、どんよりとした天気で、とにかく長く感じた。実際7時30分頃出発して、到着したのは2時頃だった。
 途中、仙人池に寄って、天候の回復を待ったが、ガスが流れるほどの風がなく、ちょっと残念でした。

 阿曽原温泉は高熱隧道から引いている温泉があって、24時間入ることができる。河原になんの仕切もない温泉は快適です。明るいうちは男女交代制で入るため、安心して入ることがで
きます。
 阿曽原温泉に行くには今回のコースか、剱沢から下降していくか、更に明日のコースである下ノ廊下を歩くかしないと行けない、まさに秘湯です。温泉目当てでなくとも、温泉目当てであ
っても、とにかく期待を裏切らないところです。

 阿曽原温泉の食事もカレー。でもここのカレーも美味しい。でももっと美味しいのはここのご飯で、小屋の主人の佐々木さんのお父さんが、宇奈月で作っているコシヒカリだそうだ。とにかく
美味しい。今度行く時は絶対美味い塩を持っていって、ご飯を堪能しようと思う。

 4日目、最終日。今日は下ノ廊下上半部、黒部ダムまでの9時間の行程だ。
 下ノ廊下は欅平から阿曽原温泉の下半部では、ほんとうに水平な道が続き、あまり変化もなく楽しくないが、上半部は十字峡、白竜峡など、水流のすぐ上を通ったり、恐ろしげな狭い道を
通ったりしてなかなか楽しい。
 出だしは山道をずっと行くが、仙人ダムを過ぎてからは高度感のある吊り橋や岩をくり抜いて作った水平歩道などが出てきて歩くのも楽しくなってくる。
  

 高度感のある水平歩道はザックが壁に当たると危険なので注意が必要だ。ザックにものを付けるのは止しておいた方が無難だ。
 十字峡を過ぎて、白竜峡が始まると、岩場のトラバース道も状態が悪くなる。

 手を使って歩かないと下に落ちてしまうだろう。2カ所ほど体を思い切って外に出して通過するところがあるので注意が必要だ。
   
 白竜峡を過ぎると、あとは標高の低い登山道が延々と続く。紅葉の時期は最高だが、暑い時期はたまらない。

 1日目に室堂を出てから剱岳を一周するように歩いてきて、自然のすごさを目の当たりにしてきた。しかし、下ノ廊下では人間と自然との闘いがいたるところで見られる。「高熱隧道」(吉村
 昭著)を読んでおくと、それを感じずにはいられない。

 よく、こんな所まで人が入ったものだ。しかも入るだけでなく、こんなものまで作ってしまって。
 自然破壊とか、環境破壊とかいう言葉があるが、それを超越して人間のすごさを感じてしまう。そして、自然のすごさも。

 4日目、歩き始めて7時間ほど。谷の向こうにお城が見える。正確には曲輪だ。ほんとうにそう見える。
 更にもっともっと近づくと、今度は巨大な城壁が見える。黒部ダムだ。
 人間は、人工物に感動できる人とできない人がいるが、僕はできない人間だと思っていた。でも、こうして、ずっと山を歩いてきて、人間と自然との闘いを見てきて、最後に黒部ダムを出さ
れると、やっぱり感動せずにはいられない。

 長く厳しい登山の最後には、黒部ダムはふさわしい。



 うーん。最後は力が入ってしまったけど、ホントです。
 これで裏剱の紅葉がもっとよかったら、きっと黒部ダムではもっと感動していたでしょう。
 中島みゆきの唄があまりにも似合いすぎるほどに。

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山岳ガイド ミキヤツ登山教室は、夏山、冬山ともに国内では八ヶ岳、穂高・槍ヶ岳、剣岳、北岳、小川山、瑞牆山など、海外ではヨーロッパのシャモニ、ドロミテで山岳ガイド、登山教室、雪
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