硫黄岳のコースと赤岳のコースの違いについて
硫黄岳と赤岳のコースの違いは、技術的なレベルは赤岳の方が高くなりますが、必要な体力は同じです。
あくまでも雪山であること変わり無く、「硫黄岳だから体力は要らない」ということにはなりません。
赤岳と同様に、技術的なサポートはさせていただきますが、他の参加者の方の迷惑とならぬよう、体力だけはご持参ください。
ロープを使った登山である以上、繋いでからの行動に個人行動は無く、一人が脱落すれば、全員での下山となる事をご了承ください。
「雪山はフラットフッティングが基本」といわれますが、これは「足を水平に保つことが基本」の間違いで、これをしっかりと修正する目的で硫黄岳のコースを行います。
体力的に余裕のない人は赤岳のコースで行うアイゼン講習、そして翌日の登山で足を水平に保つことすらできなくなるため易しいコースを追加しました。
しかし、普通に登山できる方、体力に余裕のある方は赤岳のコースで大丈夫です。
もちろん「足を水平に保つ」ことの重要性、方法なども赤岳のコースで行います。
コースの内容
雪山の景色は皆さんが思うより素晴らしく、その世界は意外に近いものです。
今回のコースは初めて雪山を目指す方、そして本格的な雪山の一歩手前で躊躇している方にお勧めします。
もちろん、ここが目標であっても良いですし、とりあえず行ってみるか!という方にもお勧めします。
赤岳のコースでは少し不安だという方にもおススメです。
空に向かうように登って行く。雪山の素晴らしい瞬間です。
1日目は美濃戸まではガイドの車に同乗していただき、ここから雪山へのアプローチが始まります。
赤岳鉱泉までは林道を1時間、その後登山道を1時間の行程です。
ここでは皆さんの山での歩き方をチェックし、必要であればその場で練習、改善しながらの行程となります。
赤岳港に到着、1時間ほど休憩の後、雪上歩行講習を行います。
この講習は雪山だけでなく、夏山も含めた山での正しい(合理的な)歩き方を練習します。
多くの方が山で正しく歩けていると思いがちですが、殆んどの方は体に無理をさせながら歩いているのが現実です。
山で少しでも楽に歩くためには、体に無理をさせない骨格を意識した動きが必要です。
そして、この正しい山の歩き方が雪山での雪上歩行に欠かせない基礎であり、それは無雪期での登山でも共通する登山の基礎技術となります。
山を歩くだけでなく、アイゼンを使いながら歩行の練習を行います。
今回ここでしっかりと山の基本的な歩き方、そして雪山歩行の基礎技術を学びましょう。
・ステッピング(ステップを作ってフラットフッティング)を中心とした雪山歩行基礎技術
・バランスだけでなく、登山の推進力となるストックの使い方
・ピッケル、アイゼンを活かす歩き方
宿泊する山小屋、赤岳鉱泉は多くの方が知っているとおり、食事、小屋の対応など評価の高い山小屋です。
小屋ではしっかりと体を休ませて、翌日の硫黄岳登頂に備えましょう。
硫黄岳は標高2760m。
雪山としては難しいわけではありませんが、頂上付近ではしっかりと雪山の景色を楽しむことができます。特にここからの阿弥陀岳の景色は素晴らしく、雪山の醍醐味です。また、降雪直後など雪が深い時には樹林帯でも十分雪山を楽しむことができ、そういう時こそお勧めでもあります。
そしてこの難し過ぎない雪山、硫黄岳こそ基本的な雪山歩行技術を身に付けるのに適しているといえます。
難しくないからこそ、自分の動きを気にしながら歩くことができるのです。
樹林帯も雪があれば快適、楽しめる世界です。
時にはこんな状況もあるのが雪山。雪を楽しみながら登りましょう。
いずれにせよ、雪山を楽しむ過程で山の歩行を学びましょう。
雪山だけでなく、夏山にも役に立つはずです。
今回の雪上歩行講習の狙い
運動(スポーツ)するにあたって、人の骨格を無視した無理のある動きは運動能力が低下してしまいます。
山の世界でも同じで、知らないうちに無理のある動きを続けてしまいがちです。
山で無理のある動きをしてしまう原因は、普段の生活での歩行方法を山でも行ってしまうためです。
「体に無理をさせない骨格を意識した歩き方」とは何か。
ネタバレですが…、「足を水平に保つことを意識して歩く」ことです。
人間は水平な場所でしか立っていられない骨格を持った生き物です。水平な場所で生活し、水平な場所を前に進むように特化した骨格を持った生き物です。
人が移動・運動するには水平な場所の方が有利で、山など不整地での行動は不得意なのです。
このため人の生活圏では、道路は少しでも傾斜を小さくし、上下に移動する場所には水平な場所が連続する「階段」を設置するのです。
では山ではどうか。
夏山では登山道を階段状に整備したり、急登をジグザグに登る事で傾斜を緩くすることで、歩きやすくしています。
逆に、登山道が階段状になっていなかったり(ザレ場のような場所)、急登を直登しなくてはならない場合は、とても歩きにくく疲れるはずです。
人は足が水平にならなくては行動が難しくなるのです。
だから少しでも足が水平におけるような工夫をしながら歩く必要があるのです。
普段の生活での歩行は、既に水平な場所が設置してあるという条件で行っているのですが、山では足を水平に置ける場所が限られてしまいます。
そんな状況で普段の歩きを山で行うとどうしても無理が生じてしまいます。
さて、ここまでお付き合いしていただいた方で、雪山の経験や知識がある方は疑問が生まれてくるはずです。
登山は「フラットフッティング」が基本ではないのか?
答えからいえばNOです。
フラットフッティングが雪山歩行の基本ではありません。
フラットフッティングは斜面に足裏全体を接地させることであり、足を水平に保つことではありません。
水平な場所で足裏全体を接地させれば足は水平に保てますが、斜面で足裏全体を接地させると足は水平を保つことができず、人は不安定な状態になります。
この状態で歩行、運動しろといわれても、なかなか難しいと思います。
これは人の骨格(水平な場所に立つことに特化している)を無視した行為です。
雪山も含めた登山ではフラットフッティングが基本と従来からいわれてきましたが、「足を水平に保つこと」と「フラットフッティング」を混同しており、それらを伝える側がその事実に気が付いていないことが問題となっています。
正しくは「足を水平における工夫をして歩く」事が基本であり、それができない時のみフラットフッティングをする必要があります。
ではなぜ混同されて来たのか。
古い時代、ヨーロッパ帰りの登山者が「フレンチテクニック」という名前でフラットフッティングを広めました。
氷河の多い彼の地では、当時のアイゼンでは斜面にフラット(斜面に足裏全体を付ける)に置くことでしか、アイゼンを効かすことができなかったのです。骨格を無視してでもアイゼンを効かせることに重きを置いた技術です。
このためこの技術は一部の登山者しかできず、このテクニックを使えることは優秀な登山者の証でした。
一部の人にしかできない技術が憧れになって、フラットフッティングが基本として広まってしまったのでしょう。
しかし、今の技術、道具では骨格を無視することなく、楽なアイゼンの効かせ方、歩き方が可能です。
人の骨格を無視してまでフラットフッティングをするのは、運動(スポーツ)においては能力を下げる行為であり、登山においては危険を招く行為となります。
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話が長くなってしまいましたが、今回の雪山歩行講習では足裏を水平に保つ技術を使って、雪山を歩く練習をします。
具体的には「ステッピング」をしっかりと身につけていただきます。
ステッピングとは雪上でステップを作りながら歩く行為ですが、傾斜が緩い場合は足裏が水平に置けるようなステップを作ります。
そしてその水平なステップに足裏全体を接地させる「フラットフッティング」を行ない、アイゼンをしっかりと効かせて歩く練習を行います。
本格的なアイゼン歩行では更にフロントポインティング(つま先だけのステップ)、スリーオクロック(40度程度の斜面を登るテクニック)等が必要となりますが、今回のステップを作りながらのフラットフッティングが基本となります。
これをしっかりと身につけて、次のステップへ進みましょう。
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