八ヶ岳、小淵沢に住む山岳ガイド、加藤美樹・久野弘龍が、ヨーロッパ・シャモニやドロミテ、国内の雪山、冬山、バックカントリースキー、夏山、登山・クライミング教室、ガイドを行っていま
す。


 2002年 8月  北アルプス・無雪期 前穂高岳北尾根        

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久野弘龍 Uさん
8月10日(土)〜11日(日)

 まず初めに、僕の勝手なバリエーション論。
 
 前穂高岳北尾根は、剱岳の八ッ峰、槍ヶ岳の北鎌尾根とあわせて日本三大岩稜と呼ばれている。
 しかし日本の山の中ではもっと大きな岩稜、登り応えのある岩稜は多くあり、例えば槍ヶ岳の西鎌尾根に伸びている硫黄尾根。冬季にしか登らないルートですが、ルート自体の美しさ、困
難さなどは主観的な判断ですが、三大岩稜を大きくしのぐものだと思います。

 では三大岩稜がその名誉ある名前を得た所以はなにか。
 登りやすさの割に、充実感が大きいということにあると思う。誤解を招くかもしれないので付け加えるが、ザイルを使用するバリエーションルートとしてはという意味である。

 3本共に言えることだが、どのルートもよく目立つ。

 何が目立つかって、登っている姿がよく目立つ。槍の北鎌尾根はルートの下の方は目立たないが、大槍の直下では頂上から見れば登っているのが見えるし、最後は祠の後ろにひょっこ
り飛び出すので目立つこと間違いなし。

 八つ峰は頂上にこそ飛び出さないが、あのギザギザの岩稜はどこからでも目立つし、裏剱からの景色はどこの山とは知らずとも八ッ峰だとはわかるものでしょう。頂上付近からは登ってい
るクライマーが奮闘している姿が小さく見えるが、これがまた良い味を出している。屏風岩で小さい姿が見えても、谷川の一ノ倉でクライマーが見えても、下からは何をしてるのかよくわから
ないが、八ッ峰ならよくわかる。見えるということではない。どう登っているか、どうやって登るかが簡単に想像できる。一般登山道を歩くことから、少し頑張れば踏むことの出来るルートなん
です。

 

 それでは本題のルート、前穂北尾根はどうか。

 まず、見栄え。これは申し分ないでしょう。奥穂、北穂、涸沢から、そして槍からすら見えるあのギザギザ(写真左・右)は日本を代表する山岳風景。

 では、他の登山者に対するウケはどうか。登っている姿は残念ながら見られにくい。かろうじて4峰の一部とそれぞれのピークで遠くから見られる程度である。しかし、このルートのあるの
は、世界に誇れる(と思う)涸沢。登山者も沢山います。涸沢からまだ暗い中、ヘッドランプを着けて、登山道をはずれ雪渓の脇を進む姿は、数は少ないですが涸沢になくてはならない名物
です。

 ルートが終了するのは前穂高岳の頂上。槍ヶ岳ほど人は多くはありません(広い頂上なので人の密度が小さいだけ)が、ヘルメットを被って頂上に登りついて握手をし、ザイルをほどく姿
は、登る前とは違ってクライマーそのもの。山岳関係の本の世界がよくわかります。



 ようやく山行報告です。前穂北尾根はほかに8月3〜4日、16〜17日(18日)でも行っていますが、10〜11日の分を報告します。

 10日は上高地でUさんと合流し、奥さんも一緒に3人で涸沢へ向かう。しかし、奥さんは本谷橋手前でリタイアし横尾泊まりとなり、11日上高地で合流することになった。Uさんと僕は予
定通り涸沢へ向かう。涸沢ではヒュッテをよく利用するが、今回の北尾根は小屋を利用した。北尾根がよく見えるからだ。



 翌11日、朝4時に出発する。まだ暗い中ヘッドランプをつけて進むが、5/6のコルの登りの途中で夜が明けた。上空は雲がかかっているが、その下から朝日が差し込み、雲の下の岩肌
は赤く染まり何とも幻想的だ(上の写真)。

 5/6のコルについたときは向こうに奥又白の池が見え、5峰は明るく輝いていた。のも束の間、あっという間に雲に巻かれて雨が落ちてきた。とりあえず4/5のコルまでは進むことにす
る。しかし、このまま雨が強くなるとこのまま雨が強くなったら4峰の登りは危険なので、これ以上強くなったら4峰を登る前に中止する旨をUさんに伝える。

 5峰は一般縦走路とかわらない難しさだが、ルート以外は両方とも切れ落ちていて少しのミスも絶対許されない。

 4峰の登りに入る前にUさんに伝える。まだ雨が降り続いているのでここで少し待ち、強くなるようなら中止だと。
 するとUさんはとっても怖い顔をしている。絶対に帰るとは言わせないぞという顔だ。こわい・・・。
 しかし、Uさんの気合い勝ちか、雨が弱くなってきた。今のうちに4峰さえ抜けることが出来れば行ける。そういうことで4峰を登りはじめる。

 北尾根の核心部(難しい所)は3峰だと一般的には言われる。
 しかし、僕は4峰こそが北尾根の核心部だと思う。確かに3峰の方が岩登りとしての難しさはあると思う。しかし4峰はルートファインディングが複雑で難しく、岩も浮いていて落石の危険が
とても高い。抱えた岩がグラッと動くことがある。3峰は岩が安定しているためザイルでしっかりと確保できるが、4峰の場合はタイトロープでのビレイ(確保)でしかやりようがない。ロープを
伸ばしてしまうと落石を誘発する可能性が高く、とっても危険だ。だから、北尾根を行くパーティは4峰をノーザイルで行けるだけの実力の揃ったパーティか、初心者がいるならタイトロープビ
レイで同時登攀の出来るリーダーがいる場合にしたほうがよい。

 岩登りの初級ルートとよく言われるが、落石の危険を考えたら、北岳バットレスの4尾根の方が遙かに初級ルートだろう。ゲレンデでどれだけ岩登りの練習をしても、落石などの危険対策
は出来ないのだから。

 そんな訳で4峰は出来るだけ状態の良いときに登りたい。雨でフリクションが落ちるのも怖いが、雨によって注意力が落ちるとい
うのが怖い。
 しかし、ラッキーなことに4峰を登っている間に雨はやんだ。これなら大丈夫だろう。ロープをタイトにして地面にすらないようにして確保(というより補助)しながら登っていく。4峰は初め涸沢
側を巻き、そこから稜線に上がり、そのまましばらく稜線を行く。稜線上が岩で行く手をふさがれたら、奥又側を巻く。ここは岩を抱えるような一歩を含むトラバースなので注意した方がよい。
トラバースしてすぐもろいルンゼ状に出会うのでそれを稜線に向かってのぼる。ここも落石の危険はあるし、登りも結構難しいので注意が必要だ。稜線を越えて、再び涸沢側を巻きながら4
峰の頂上に出る。4峰の頂上から3/4のコルへは主稜線伝いにコルへ行く。見た目ほどでなく、歩いていける。奥又側の斜面をトラバースしたくなるが、見た目よりも悪いので辞めた方が
よい。

 4峰は特に奥又側に踏み跡が沢山ついている。はっきりとしたトレースがついているが間違っているものもあるので、「ルートファインディング=踏み後を探すこと」等という間違いはしないよ
うに、ルートを探す必要がある。行き詰まったと少しでも思ったら引き返すのが必要だと思う。あるいは偵察しながら行く位の慎重さが必要だと思う。

 3/4のコルにつく頃には雨は完全に上がった。
 

 3峰の登りはしっかりとロープで確保できるので余裕だ。難しいと言っても(ザイルで確保されれば)登山靴で登れる程度なので、濡れていても問題ない。
 2峰は難しくないことが書いてあるけど、ルートファインディングを誤ると確保が必要な状態に陥ることがあるので注意。基本的には涸沢側を巻き、2峰の頂稜の途中あたりにでるようにす
ると良い(と思う)。あまり稜線に忠実に行こうとするとはまる。ここも当然アンザイレン(ロープを繋いでいる状態)しているべきだと思う。

 2峰の下りは8bほどのクライミングダウンか、懸垂下降。クライムダウンする場合は確保した方が良いと思う。

 1峰(前穂頂上)はもうすぐだ。

 頂上についてUさんと握手してザイルをほどく。

 前穂は重太郎新道を降る場合、雨が降るとこれまた難ルートになる。特に鎖のついていない、紀美子平までが大変だ。と思っていると案の定降ってきた。それもかなりの本降りである。浦
本さんが少しでも不安がったら迷わずザイルを着けようとしたが、Uさんは平気なようだ。足取りも問題ないし、何より危険な場所を探し出し、そこではかなり慎重に降りている。

 前穂高岳から降る場合、岩場をトラバースするように降りるところで、つるつるのスラブ(一枚岩)になっている所がある。降る場合、右側が切れ落ちている所だ。ここは、この岩場を行く前
に右側から巻いて、この岩場の下を降りていけるので覚えておくといいかもしれない。ただし、上に登山道があるので落石の危険はある。

 順調に岳沢に降り、ヒュッテで乾杯のビール。上高地で奥さんと無事合流し山行を終える。

 8月17日、前穂北尾根で、僕らの後ろのパーティが遭難しました。
 16人パーティ!のおじさんおばさん!(中高年が悪いのではなく、大集団であることがまずい)
 全員ノーヘルメット
 全員(大人数)行動!
 本人達には失礼ですが、こんなパーティ構成、装備不足で北尾根等のバリエーションルートに来るのは死にに来るようなものです。バリエーションルートは数いりゃ、落石の危険が増える
だけですよ。西穂から奥穂も一緒ですよ。

 これを読んだ人はこんな非常識な行動はしないでくださいね。

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