す。国際山岳ガイド連盟・日本山岳ガイド協会所属
1シーズンに、のべ50回(1回の定員2名)程度このコースを行っているので、ピックアップして紹介します。 一般論として雪山の怖さは、日々コンディションが違っていて、前回の経験があてにならない事かもしれません。 小春日和で何のことはなしに登れたとしても、次は違うかもしれません。 しっかりとしたトレースを辿ることで無事に登山を終えても、次は全くトレースがないかもしれません。 拙いアイゼンワークで無事だったかもしれませんが、次には通用しないかもしれません。 そうならない様に、参加者の方にはどんな状況でも通用する技術、考え方を伝えていくことを考えています。
2009年12月26日(土)〜27日(日)の山行報告
週替わりで寒波と暖かさが交互に訪れる八ヶ岳。
状況次第ではゆっくり時間を掛けてでも山頂に到達できるこんな日もあります。 さて今回は、日付のみが例え厳冬期でしたが、条件は残雪期の春山と変わりなく、本来の厳冬期の山とは大きく異なっていました。 そんなときは楽しみながら時間をかけ、余裕を持ってゆっくり登頂できました。
20日の赤岳は東面で死者を出すほどの寒波に見舞われ、珍しく赤岳でも敗退。
22日は強風(風速15メートル程度)でしたが視界は良好で、良い登頂日に。
そして27日は暑すぎるくらいの暖かさの中、ゆっくりと赤岳を訪ねることが出来ました。
この日は地蔵尾根にある吹き溜まりの斜面で、上部から足下の危うげな人達が降りてきて、私はすぐに登っていた後方のお客様に、ラインを逸れるように指示しました。すれ違った後でし
たが、やはりその下山者は滑落。吹き溜まりなので勝手に止まりましたが、あれが上からのアイゼンキックだったらと思うとゾッとします。
夏山と違い、冬山には落石は少ないですが、人の多い八ヶ岳では、人が落ちてくることにだって注意が必要なのです(むしろ雪崩より多いかも?)
31日は再び大きな寒波の南下に伴い、視界もなく突風の稜線を行くことになり、体力的に足りなかった1名が天望荘まででしたが、皆さん本来の厳しい八ヶ岳に出会えたことで、良い雪
山経験が出来たのではないでしょうか。 この前日の昼前は地蔵尾根で滑落者が出ましたが、突風で防災ヘリは近づけず、行者小屋スタッフと、ヘリによって送られた県警と捜対協の隊員によって、一旦行者小屋に下ろされ、そ の後ボートで中山乗越しを経由し、赤岳鉱泉から美濃戸へと搬送されたのは、夜も更けた20時でした。 骨折していたご本人も辛かったとは思いますが、70キロの巨体を背負い搬送した 皆さん、遅くまで大変お疲れさまでした。 そして何より、命が助かって良かったですね。命さえあれば、山へはまたいつか行けます。 半裸になるスタッフまで居た、行者小屋の雪下ろし風景です
今期から始まった雪崩れに対する基礎知識講習やビバーグ訓練は、時間の合間にやっていますので、帰り際だったり前日のアイゼン講習の後だったり、あくまでアイゼンワークに重点を置
いていますので、その日のメンバーの力量によってスケジュールが変わります。 この日はスキーの指導員であり、ガイド協会でもスキーの検定員を務める佐々木ガイドから、弱層の見分け方、場所にとっても大きく変わる雪質、行動中の情報から得られる危険度の判断 基準、などといったことを学びました。 スノーソーで切り出した四角い雪でのシャベルコンプレッションテスト。 雪への力の掛け方を段階を追って強め、層のずれ方で弱層をみつける。 しかしこの弱層テストで本来知るべき事は、弱層の有無よりも「雪を知る」ということです。 八ヶ岳でよく見られる表面霜。これは弱層になります。
雪は日向と日陰はもちろん、その微妙な傾斜や斜面の方角、また風の当たり方などによって、大きく雪質が変化します。
樹林帯で上から落ちた積雪の中でさえ弱層は形成され存在し、刺激を与えられたり、上に乗った積雪が切られて水平方向のつながりが弱くなると、その弱層の強度次第では落ちもすれ
ば落ちない時もある。
ですから単に雪崩れの予測をすることは大変難しく、積雪のあるところではどこでも雪崩の可能性があるのだと認識しておいた方が良いでしょう。
あとは自分が踏み込んだ斜面で行動する中での弱層の察知や、斜面でのルート取りといった、危険に対する警戒感の方が、むしろ重要なのかもしれません。この知識を持っているから、
それで「安全」ではないのです。 極論してしまえば、弱層は常に存在し、雪崩は必ず起きます。 だから、雪を知って、雪崩が起きてもどうすれば影響を受けない様に出来るのかを考えなくてはなりません。 まちがっても、弱層テストの結果、「雪崩れは無し!」という判断にならないように!
2009年12月13日(日)の山行報告です
金曜日に積もったばかりの、新雪に覆われた八ヶ岳。
今週の赤岳は二パーティー。登頂がまずは目的ということで、佐々木パーティーは先行。
若く強いメンバーに、絶好の天気、そして新雪ともなれば、トレースなんか辿っちゃいられません。
私たち3人は新雪に突撃!
森林限界近くの広場でアイゼンやロープを付け、さぁスタートするやいなや、直登の階段ではなく草付きにアックスを決めながらトラバースの開始。
鉄製のステップを登っていくHガイドパーティーの女性陣を横目に、
「え?僕たちは階段じゃないの?」 という視線を感じつつ、体制を整えて確保に入る。
「岩じゃない草付きにピッケルが決まるから、一振りずつしっかり決めて」という指示に、昨日の氷で初めて練習したアックスの打ち込みを、早速実演させられるKさんMさん。
初めは不安定な新雪に足下が崩れ、恐る恐るだったお二人も、フロントポイント(アイゼンの前爪)も草付きまで蹴り込み、アックスで体を安定させながら「へぇ〜意外にしっかり刺さるんで すね」などと、感心しつつ上がってくる。
お次は上のルンゼ(沢筋)からよく雪崩れてくる箇所での、深雪のラッセルです。
ラッセルはパワー、体力勝負ではなく、技術です。 まずは膝で雪を沈めます。これは雪を固めるというよりも、足を前に出すスペースを確保する事が目的です。 ですから何度も膝で踏み固める必要はありません。 膝でつくったスペースに足を進めま、ステップを崩さないよう鉛直方向に乗り込む。 「ウヒャ〜こ、こんなに潜る?」 ・・・となっても焦らず、そこから足を抜いて雪をそこへ足して、再度踏み込みましょう。 一番の間違いは、膝で雪を固めようとすることです。膝だけの圧で雪を固めても、実際には体を支えるほどの強度にはなりません。 結局は自分の足の裏で圧を掛けられるように進めた方が上手くいきます。 @膝で足を出すスペース、ステップをつくる。この時雪を圧縮するようにすると良い。 Aつくられたスペース、ステップに足を載せて加重する。 Bもし雪が潜ってしまった場合は、足を抜き、周りの雪を集めてステップ内に入れて、再度その上から乗り込む。
根雪がまだ無い上への積雪のため、地面との間には空間があり、膝丈から深いところで腿まで潜る。
地蔵尾根をこの朝一番乗りした人の苦労が忍ばれます。ただし、沢筋の流心直下を、そのまま直登していくラインはいただけません。こんなラインでラッセルしていて、雪崩れてきたら直 撃です。 ※2010年シーズンはココで3回雪崩がありました。 毎回雪崩のラインを避けていたことと、そのライン上に人が居なかったために問題とはなりませんでした。雪崩対策はまずはその雪崩のラインを外すことが欠かせません。
私たちは流心を避け、最も左寄りの岩陰にラインを取って進む。
ある程度ラインを決めて誘導したら、あとは先頭を交代してお客様によるラッセル体験です。
初めは膝での加重、雪の追加が足らず、一歩一歩深く潜り込んでは足を引き抜けなかったのが、だんだん大胆な動きで足を出せるようになってきました。
でも上半身との連携がまだまだかな。
これで長距離だと日が暮れちゃうよ?ガンバッ!
何事も最初からは上手くいくはずもなく、まずは「トレースを辿るだけなのが楽であること」と、しかし「トレースを歩くだけで登ってきても、それは確かな経験とはならないこと」を身をもって体
験することが重要なのです。
あとは考え、理論的にどうやったら一番効率的な動作になるのかを考えながら、回数を重ねる。
だからラッセルのより多いバリエーションに行く機会の多い、久野の方が私よりも更にラッセルスピードは速いのです。
「何で僕らだけ・・・」なんて思わずに、ほら、天空にかかる光の現象をバックに登る姿は格好いいですよ
青空とは言えないけれど風の凪いだこの日、空中に浮かんだ氷晶を通した、光の屈折による七色の輪「日暈」(ひがさ・にちうん)が現れました。
「う、また直登っすかぁ?」 「そりゃ、若いんだし」
この笑顔だったらまだ余裕♪(?)
稜線は雪が少なくなって楽になったので、今度は雪の下の岩を、フロントポイントやフラットフィッティングを駆使して捉えながら歩く練習です。アイゼンだと、やっぱり雪の上が楽なのです
が、常に安定した積雪のある箇所ばかりを歩ける訳ではありません。様々なケースを想定してみましょう。 私たちは鎖から離れてもちろん直登!
「右足はフラット?左足はフロント?よく意識して使い分けましょう」
「そうそう、どっちつかずな中途半端な動きはダメですよ」
下山は皆さんが先頭で降りることになります。
ですから状況をしっかりと観察して、自分でルートファインディングをしてもらいます。 「危ない方に行ったら声を掛けます」
「迷ったら雪のあるライン、より安全なラインを選択しましょう」
最後に「自信を持って進みましょう」
多くの人が、先頭に立った途端に、後ろばかり振り返って助けを求める目で訴えるのですが・・・。
それも初めてなのだから、仕方ないですけれど。
下山も同じく、トレースを外しても下に合流できるところであればガンガン外して歩いて貰い、昨日のアイゼンワークの確認を。
湿った雪は面白いようにアイゼンが効き、決してアイスバーンというわけでもないので快適だ。
調子よく踏み出していたら、Mさん転倒。
ウィンドクラストした場所に潜った足を、そのまま前に踏み出そうとして、表面の硬い層に爪先を引っかけたのです。斜面の微妙な向きや傾斜によって、風当たりや日の当たり方も変わり、
雪質は千差万別。潜る雪で滑落することは、アイスバーンに比べれば希ですが、足を引っかければ頭から転倒することもあるので、雪の変化には注意が必要です。
しかし人間の緊張感なんて長時間保てるものではありません。
緩やかな尾根や窪地といった、安心できるところでは、ちゃんと力を抜きましょう。
精神の緊張を、時には解いてあげることだって必要なのです。でないと、緊張感のまだ必要な箇所で、緊張の糸がプツンと切れたら、そちらのほうが危ないものです。
足下ばかりを見つめるのではなく、ゆっくりと周囲を見渡す。来た道を振り返る。遠くアルプスにかかる雲を眺める。
そういった心のゆとりも、意識して持ちましょう。
森林限界の下に来ればもう安心。ロープやアイゼン、ハーネスといった装備を解いて、後は足スキー、お尻スキーに滑落停止と、雪と戯れながら滑り降りていきます。ただし、その前にポ
ケットやベンチレーションはしっかり閉じましょう。小屋に帰ってからが大変ですよ。
行者小屋で佐々木パーティーと合流。佐々木ガイドからの褒め言葉を戴く。
「今日この赤岳を、最も苦労して登ってきたのは、皆さん3人に間違いないでしょうね」
※ちなみに、必ずこういった赤岳ばかりでは無いのでご安心を。
もちろん前日の講習で計ったメンバー構成、能力、その日の天候や気温によって、行動パターンは変わってきます。突風の吹く体感−30℃の稜線でこんなことやっていたら、登頂どころ
か凍傷の危険もありますので・・・
赤岳のコースはほぼ週に一回、1シーズンで30回ほど行いますが、だいたいこんなコースです。
小淵沢駅から美濃戸口へ向かう。
美濃戸口では車でここまで来られているお客様と合流し、4輪駆動車にスタッドレス+チェーンを巻いて美濃戸へ向かう。
赤岳鉱泉までは初めは林道、途中から登山道を行き、およそ2時間で到着する。
アイゼンは付けずに歩くのですが、ここで参加者の「体力」や「歩き方の癖」をチェックし、それぞれにあったアイゼン講習のイメージ作りを行います。
当然、初めての雪山で上手く歩けない方もいるので、その場合には適時アドバイスを行います。
アイゼン無しで雪の上を歩くには、いわゆる山の正しい歩き方が必要で、上手く歩けない人はそれが出来ていないからです。
一日目のアイゼン講習はアイゼンの使い方だけでなく、この、「山での正しい歩き方」を練習するといってもよいでしょう。
赤岳鉱泉に到着するのは12時頃。13時までは暖かい小屋で休憩で、昼食をとります。
13時からは赤岳鉱泉のアイスキャンディ脇の氷の斜面でアイゼンの練習です。(この氷の斜面は赤岳鉱泉のオーナーの好意で私達の希望で作ってもらいました。)
私達は雪山で最も重要な技術はアイゼン技術を含めた「歩行技術」だと考えます。滑落停止よりも何よりもです。アイゼンを付けて自由に、安全に歩くことが出来れば、滑落停止技術の出
番はありません。
しっかりとしたアイゼン歩行技術を身に付けるには氷の上で行う必要があります。雪の上でやってもほとんど意味がありません。氷の上でアイゼン訓練する理由はただひとつ。氷の上でや
ればごまかしが利かないのです。雪の上でどれだけ練習しても簡単にステップが切れてしまって、アイゼン練習の意味がないのです。
また、滑りやすい斜面(アイゼンを履いていても氷の上は滑りやすいのです)では、体のバランス、重心移動が大事になり、その練習にもなるのです。
アイゼン講習の内容はこちらでご覧ください
よく、「ネタバレで大丈夫ですか」と言われますが、大丈夫。
アイゼン講習は、ただ単にアイゼンの使い方を練習するのではなく、アイゼンを使って歩く練習をすることです。
人の歩き方には癖があり、それをアイゼンを上手く使える歩き方、「山での正しい歩き方」に修正することが私達の仕事です。
参加者にあわせた講習を行い、少ない時間でより高いレベルを目指していただきます。そのための少人数制です。
練習はおよそ4時間。人によっては筋肉痛になるでしょう。
練習を終えて小屋に帰れば美味しい食事です。
メニューは霜降りのステーキを各自で焼いて食べたり、きりたんぽ鍋だったり、海鮮鍋だったり、とにかく下手な館顔負けです。それにサラダ、味噌汁、ご飯です。サラダも凝っていて、生
ほうれん草(無農薬)のサラダや、カリカリベーコン入りのドレッシングサラダなど、豪華です。
2日目の出発は7時。
よほどの荒天でない限り、頂上を目指します。
これまでには腰から胸まで没するラッセルや−40度近い低温、歩くことすら困難な強風という状態もありましたが、それぞれの状況に対処する方法を講習しながら、稜線を、頂上を目指し
ます。
行者小屋手前から地蔵尾根を上がっていきます。
樹林帯の途中まではアイゼンを付けません。急な斜面でもしっかりとステップを切りながら歩けば、雪の斜面なら問題なく歩けます。
これはアイゼンを付けていても必須の技術なのでここでしっかりと練習しましょう。
アイゼンを付ける時はオーバーグローブを付けたまま行います。
もしかしたら稜線でアイゼンを付け直さないといけないこともありますし、低温時に素手にならないようにするためには日頃からオーバーグローブを付けたまま行えるようにしておく必要があ
ります。
樹林帯を抜けて、無雪期の階段を過ぎると、いよいよアルピニストの世界です。
昨日の練習通り、ここからはアイゼンをしっかりと効かしての登りです。硬く締まった雪の斜面なので、アイゼンがキュッキュッと小気味よい音を立てて、雪山の気持ち良いところです。
ここからはできる限りトレースを外しての登高を目指します。せっかくロープで確保しているのですから、思い切って行動しましょう。
緩傾斜ではフラットフッティングで、急傾斜ではスリーオクロック(片足フラット、片足フロントポインティング)で登ります。アックスは時には石突きを突いて杖がわりに、時にはピックを刺して
手掛かりとします。
稜線付近では見事なナイフリッジになることもありますが、前日のアイゼン講習通り行えば問題なしです。
稜線に出ると一気に風が強くなります。
しかし、何処でも風が強いわけではないので、風の強いところ、弱いところを地形から読み解き、横風に対応できる歩き方で進みます。
「正しい歩き方」が出来ていれば、これに対処できるはずです。
赤岳までは全く問題なし。
苦労した分だけ頂上では喜びも大きいでしょう。
下降は文三郎道。これも問題なし。丁寧にアイゼンを効かして、雪面をトラバースするように降ります。
ロープを付けている時には下りはガイドが一番後ろになり、そうなれば当然お客様が先頭です。
せっかくなので、ルートファインディングをしてもらいます。でも、ここでもトレースを外してです。
岩の間の雪を上手く広い、安全かつ難しくない、しかし、時には安全を優先し、難しいところを突破します。
必ずしも「簡単=安全」ではないのが登山です。時には難しいけど安全なんてこともあります。
樹林帯に入ったらすぐにアイゼンを脱ぎ、ハーネスを外してシリセードであっという間に下の広場へ。
13時頃小屋に戻り、16時には美濃戸へ。17時頃小淵沢到着です。
山教室、クライミング教室を行っています |