八ヶ岳、小淵沢に住む山岳ガイド、加藤美樹・久野弘龍が、ヨーロッパ・シャモニやドロミテ、国内の雪山、冬山、バックカントリースキー、夏山、登山・クライミング教室、ガイドを行っていま
す。国際山岳ガイド連盟・日本山岳ガイド協会所属


 山岳ガイド ミキヤツ登山教室 北アルプス朝日小屋便り       

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2013年朝日小屋

10月4日




本来は白馬までの縦走路を行く予定が、台風の影響が見込まれたため、蓮華温泉から朝日岳への往復となりました。
このルートはアップダウンも激しく長い道のりながら、花園三角点から五輪尾根までの紅葉は、私の知る中では北アルプス随一の艶やかさを誇ります。

なので、たとえ標高差の厳しい道であっても、それが往復であっても、更に深い霧に包まれた日であったとしても、溜息の出る様なハイマツの緑や楓などの黄色や赤のコントラスト、そして
黄金色に輝く湿原の草紅葉の、小さな一本一本の草木たちが、心躍る山旅を約束してくれる、そんな場所なのです。

今年も、何組かのミキヤツのお客様が、自分たちの足で、この朝日小屋を訪ねてくださいました。

その中には、昨年の紅葉に感動して、今年もまた再び、足を運んでくれた方達が居ます。

透明感あるグラデーションのクロマメノキ、風に揺れるカライトウ、空いっぱいに黄色い葉を散りばめた大きなダケカンバ・・・
来年も、この小さな草木の、一本一本に、出会えますように。



やや日差しには乏しく、霧の流れる日ですが、紅葉はやはり艶やかです



斜光に輝くチングルマの道を、千代の吹き上げへと向かう



今シーズン一番かも?と言う、小屋のみんなと一緒に喜んだ夕焼け



「久しぶり!一夏頑張ったね」 お疲れさま〜♪再会の乾杯♪



10月5日

この日は朝日小屋から、広葉樹の多い水平歩道で紅葉狩りをしながら南へ、更に稜線から朝日岳山頂を経て、千代の吹き上げから栂海新道に入ったところにある、照葉の池まで北上して
戻る、1日一杯のハイキング。


天気は小康状態で、水平歩道の紅葉もバッチリ



目を凝らせばイワイチョウの黄葉の間に、可憐なミヤマリンドウも一杯咲いている



紅葉のトンネル



前方の小桜平も、前を見ても振り返っても、何処を見ても素晴らしい



残雪がつい最近まであったのか、ミヤマキンポウゲのお花畑まで!



水平歩道から稜線へ上り詰めて振り返ると、雄大な雪倉岳の斜面をバックに、華やかな色の競演が眩しいばかり






山頂を経て、再び主稜線を北上し、照葉の池へ



右手前が朝日岳、次が雪倉岳、そのすぐ右肩の奥が白馬岳です



私が朝日に通うきっかけ、君が作った木道だよ



吹き上げのコルの稜線上で、よく出会う彼ら


10月6日

白馬方面へ縦走しなくって正解♪主稜線上は雲が掛かったまま。


しかし、左奥対岸に、小さく光る蓮華温泉の遠いこと・・・


行きの霧の中とはまた違った、明るい光の中では、またここ2日で色づきの進んだ木々の葉が眩しい



往復なのに、違った場所を歩いている気分です



五輪の森も、光に溢れてます!



草紅葉も、更に色味の深さが加わっている



私は案外、華やかな花園三角点より下の、この森の中も好きなのです



ブナの黄色や



木漏れ日の落ちる森



沢山の木や草との



対話する時間が・・・ゆっくりと、流れていきます









2011年9月21日朝日小屋

北又林道改修に伴う早期小屋閉めの準備中、そして大型台風15号の通過中、嵐の小屋にて


建っているロケーションも、食事も、人も素晴らしい「朝日小屋」です

小屋からは夜は日本海の夜景、昼間は緩やかに弧を描く、能登半島の海岸線が眺められる。



ここのところ、お手伝いで朝日小屋に居ます。

この北の果ての、何処から歩こうがしこたま歩くはずの山小屋に、何故か遠く太平洋側にお住まいの方々や関西よりも更に西の方々などが、遙々と尋ねて来られ、入れ替わり立ち替わり
にと、お手伝いをして行かれます。

それはやはり、この地理的にも決して人通りの多くない、北アルプスの端っこにポツンと建った山小屋を、正真正銘、女手一本で支える清水ゆかりさんの、人柄あってのことでしょう。(何処
かの雑誌でもてはやされる割には、実際には山には居ない女主人の山小屋もある?)

表銀座と証される槍穂高などに見られるような、頻繁なヘリでの荷揚げや、大勢のスタッフを抱えたり、といったことが、この様な場所にあって出来るはずもなく、かといって頻繁に人力でボ
ッカするには、里からも遠すぎます。



お身内の食事タイム(実は小屋のスタッフよりお手伝いさんの方が多かったりして?)画像は初夏7月のお花見山行より


こういった山小屋の、荷揚げの手伝いさえも担うのが、学生の居候さんや、遠方からのお手伝いさん、時にはグリーンパトロール、果ては山岳警備隊???だったり・・・多くの皆さんの補助
もあってこそ、細々と維持されているのです。

やはりこの黒部流域の小屋で手伝いをして、生活を担い、そして居なくなってしまった山岳会仲間の替わり・・というほどの力は担えないけでしょう。

それでも、必死に主人としてこの小屋を守ってきたユカリさんの、様々な風雨に曝されながらも、それらにも負けずに、しっかりと立ち続けようとする姿には、心動かされるものがあるのです。

「山に来るのはいい人ばかり」だなんて、そんなはずもありません。
人それぞれに、鬱屈した社会でのストレスや疲れを引きずり、人によっては山という場所は、一理それらを捨てに来る場所でもあるのです。
弱きにばかり強い人だって、山には来ます。自分は「金を払っているお客なのだから」と、不本意に怒鳴られたことだって度々でしょう。

私と彼女とは同じサービス業でも、山岳ガイドという立場から、お客様でも「山のことを学びに来る」といった立場の方が多く、皆さん真摯に接してくださるので、こういったことはこれまでには
余りありません。

けれど山小屋とも浅からぬ関わりを持つので内情も察する処であり、そしてまた自分も、同業者の中にあっては、性別による差別意識が露骨だったことや蔑まれたことも、一度や二度では
ありません。

「女だから男の客が付くんだよ」「仕事しなくても、膝に手を置いてやれば良いんだから」等々、お客様の中傷にも繋がる言葉を平然と並べる相手だって存在します。
けれど、そういった言葉を口にする前に、少しだけ、考えて欲しいのです。

私達は性別を選んで生まれてきたわけではありません。例え、男性の方がより社会や家庭といったものからのストレスは大きくとも、弱い立場であればそれらが消えるものでもなく、権利も
力も、有るに越したことはないのです。


ユカリさんのことは、同じ女として、他人事とは思えないからなのでしょう。


私は折角の休日に、山を歩いたりは滅多にしません。(今はガイド試験の鍛錬中なので結構歩くけど)
休日はやっぱり海が好き。

自分で運転するロングドライブなんて、2時間が限界です。
4時間かかる実家の大阪までの運転だってダメ・・・その割には、蓮華温泉まで3時間以上、小川温泉までなら4時間以上の運転を厭わないなんて、自分でもチョット驚きなのですが・・・

遠路遙々、朝日小屋を尋ねてくる皆さんも、きっと同じに、彼女の人柄に惹かれ、この小屋を心のよりどころとしておられるのでしょう。
そしてだからこそ、長い道のりにも係わらず、人の出入りが絶えないのではないのでしょうか。

こうして彼女を通じて出会う人達は、常に狭い世界に暮らしてきた私にとって、何の利害関係も無く、そして新鮮な面白さを感じさせてくれます。

彼女や小屋のスタッフは、「ありがとう」と言ってくれるけれど、そんな楽しさや、また疲れた身体も心も癒してもらって、小屋のみんなに「ありがとう」というべきなのは、むしろ私の方なので
す。

そして、みんなが好きだからこそ、歩いていける場所なのです。


なんて、晴れた日には歩きに行かせてもらうし、朝は起きないし、包丁使うのは下手だし、細やかな気遣いにさえ欠けてる私だから、そもそも大したお役にたっていないのは、間違いないで
しょうねぇ・・・

こうして小屋の周囲を徘徊している私ですが。


この秋は早い小屋〆で、この紅葉は見られない


ある時は、うちのお客さまに見つかって
「あれ?みきさん、こんなトコで何してるんですか?」と、尋ねられたりなんかも。

このMさん、「大町から3日で日本海まで行こう」というのだから、うちのお客様ってやっぱり強い?

でも予約必須!と書いた、私のブログは・・・読んで居られなかったりして。

少人数で切り盛りする、しかも手料理の山小屋では、突然増えた一食分の夕食だって、大きな負担となるのです。
(スタッフ大勢居たじゃん!と思われた宿泊客の方?それは違います。私と同類の皆さんが、週末だけ手伝いに入っているのです)


途中で怪我しても、迷っても、何処にも他に頼る術もなく、また携帯も通じないこの小屋へのアプローチだから・・・
小屋の皆さんは、その日の宿泊客が遅くなられたりすると、とてもとても心配します。


毎朝6:30からの恒例、ラジオ体操


さて、台風15号が、これからまさに日本列島を縦断しようというこの日。
ただ1人の宿泊客だったはずの、予約の方が到着しません。

小屋主であるユカリさんは、前泊地である蓮華温泉、警察、途中の工事現場の飯場、そして翌日の宿泊地である白馬山荘と、各方面に連絡を取りつつ探します。

しかし途中にある白高地沢での通過が、唯一確認されただけ。

16:30>遂に夕暮れ時の雨の中を、小屋の男の子達が迎えに出ました。
山頂、吹き上げのコル、五輪の森近くまで下っても、尚も会うことは出来ません。

18:30>日没も間近なことから断念して撤収。

20:30>ずぶ濡れ、そして空腹を抱えて、彼らは戻りました。
(←ちょっとそこまで行けば、合流できると思っていただけに、既に夕食の時間にもかかわらず携行した行動食は僅かだった)

夜半はずっと、激しい風と雨が続く。

03:30>女子スタッフ起床。

04:30>スタッフ全員で朝食。

05:30>男子スタッフが、暖かな飲み物や風雨を避ける装備を携行し、再び消息の途切れた区間を確認に発ちます。
一般の登山客であれば、5時間も歩かねばならない、吹き曝しの道のりです。

台風が近づきつつあるので風雨は激しさを増しており、どこで迷っているのか、残ったスタッフも皆気が気でなく、小屋閉めの作業を続けながら言葉少なに過ごします。

ところが、
08:30>近くでビバーグしていたというお客様が、小屋の玄関に現れました。

この時既に小屋から出た男子スタッフは、既に無線の届かない範囲まで下っており、連絡は付きません。


見晴らしの素晴らしい、吹き上げのコルから朝日岳への稜線


実は私も懸念していたことが一つ有り、それは「最終確認地でのコースタイムは決して遅くなかった」という話から、「もしかすると、山頂を越えた主稜線上に居る可能性があるのではない
か?」と思ったのだ。

台風が紀伊半島辺りに上陸しようかという昼食前、比較的穏やかな天候だった11時半頃のことだが、私は山頂までを往復している。
この時も東側は霧が深く、これから始まる嵐を案じ、登山道を辿ってくるはずのお客様を視認しようとしたものの、見通せたのは島のように浮かぶ五輪山の頂上のみ。全く見通しは利かなか
った。

その後台風が浜松に上陸した14:00頃から急速に風雨が強まり、小屋のスタッフが山頂に達したのは17時くらいだった。

つまり朝日岳山頂には、5時間半のタイムラグの空白がある。

決して遅くはないコースタイムで途中の白高地沢を通過したことから、何らかの事故さえなければ、山頂に達する時刻は、ペース的に計っても13時から15時くらいとなるだろう。

いくら視界が効かないとは言え、蓮華温泉から登る課程で間違えると思われる分岐は、早々には考えられなかった。

が、しかしまた、主稜線を下り切ったその先は水平歩道に合流し、そこには明確な道標も立っている。
やはり私は数日前に山頂まで行って主稜線を下り、水平歩道を歩いて一周して戻ってきたのだが、この際に通過した合流ポイントであり、道標には朝日小屋からの「水平歩道は通行可能
です」という札まで取り付けられていた。

すると、ここまで主稜線を下れば、道標に導かれてグルッと朝日小屋へ戻ってくるのが道理であり、これを見て更に白馬方面へ向かうとは考えにくい。よってこの一抹の懸念までもを考慮に
入れて行動するのは難しく、そして何よりも、関係者以外の者が口を挟むのは、慎まなければならない。


朝日岳の水平歩道に合流すれば、後は白馬へ行くか朝日小屋へ行くか、分岐には明確な道標が立っている



ところがこのお客様は、その分岐まで辿り着かないままに、稜線から下ってから、分岐近くの水平歩道のすぐ上でビヴァーグしていたのだ。

「道は正しかったはずなんです。ずっと朝日岳白馬岳方面という札を追って歩いていたのだから」
と主張されるものの、実際には朝日岳山頂を通過していたのだ。
そして山小屋とは、その主稜線上にあるものだと、疑わなかった節もある。

「霧と強風で見通しも利かず、頭も朦朧としていたが、一番高かったところから一旦は急な道を下った。だがこれは急すぎたので違うと登り返し、また別の道を下っていった」
この言葉から察するに、朝日小屋に向けて下った登山道を再び山頂まで登り返した後は、主稜線上の道を辿ったのだろう。

幸い軽装でも最低限の着替えとツェルトは持ち合わせており、乾いたものに着替えてツェルトを被り、むやみに動かなかった判断は、賢明と言えるだろう。(このケースでは、あと僅かに下れ
ば、道標はあったのだけれど)
疲労困憊して食べ物も僅かしか喉を通らなかったと言う。

まだ台風通過の最中だったから、風雨は激しくとも気温はさほど下がらなかったことも幸いした。
通過後の午後から、急激に気温は下がりだして白馬は初冠雪。
気温は氷点下にまで下がった。

1日違えば、これでは済まなかっただろう。


「一夜を何処かで過ごし、動くこともままならないのではないか?」
「濡れた体で寒い思いをしているだろう」

何よりもまずは、お客様の身を心配した、朝日小屋の主とスタッフ達。
いくら足が達者だとは言っても、男衆などたっぷり1日を掛け、激しい水流の沢と化した登山道を、行きつ戻りつしたのだから、どうにも気の毒な話である。


遠望する花園三角点は、何処までも吹き曝しの尾根が続く



さて、この話にはオチがある。

聞くとこの方は、大町に車を回して入山し、南下して大町までの後立北部の全山縦走をするおつもりだったらしい。

で、用意してこられたのは・・・「5万分の一縮尺」の北ア全山図だった。

主稜線を大きく外れた場所に建つ、朝日小屋が発見できないのも、この地図ならむしろ当然とも言える話なのだけれど。


大型台風接近の最中に、このアップダウンも激しいロングトレイル、携帯すら一カ所も通じない登山道を、単独で登ってくる自信があるならば・・・
もう少し、予備知識くらい準備しましょうよ。

あ、でも、自信があるからこそ、「準備」って、要らないものだとか、感じちゃったりするものなの?かなぁ??


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