八ヶ岳、小淵沢に住む山岳ガイド、加藤美樹・久野弘龍が、ヨーロッパ・シャモニやドロミテ、国内の雪山、冬山、バックカントリースキー、夏山、登山・クライミング教室、ガイドを行っていま
す。国際山岳ガイド連盟・日本山岳ガイド協会所属

 2010年 2月他 八ヶ岳・積雪期 阿弥陀岳北稜確保講習        

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2010年2月7日(日)

一晩中轟々と吹き荒れた風は、どうか止んでくれという願いも虚しく、やっぱり朝になっても凄まじいばかり。
これで「石尊稜」はあり得ないということで全員が「阿弥陀岳北稜」にコース変更して、前日から確保講習に励んだ土曜日。さて、この状況で前日の確保講習が果たして実践できるのかどう
かは疑問であります。
 
 ※ガイド2名×参加者4名です。


前日に「行者小屋のテントから、4パーティーは行きますよ」と言われた「阿弥陀岳の北稜」だが、実際の処は樹林帯の尾根筋を敗退してきた1パーティーに遇っただけ。
赤岳は文三郎道との分岐からは既に臑までのラッセルで、下にトレースの硬い層があるとはいえ、ここから既にお客様の体力の差が現れ始めたアプローチです。

今シーズン既に3回目のMさん、夏に前穂北尾根から明神縦走という過酷なコースもこなしたTさんは、流石にしっかり付いていく。九州から参加で昨日初めてのアイゼントレだったKさん
は、足下を一歩一歩確かめながら登っていく。体の大きなYさんは、歩き方もあるが皆のトレースの最後尾でさえ沈んで辛そうです。


 
下には硬い層があるので、爪をしっかり蹴り込んだ後、鉛直方向に加重しながら乗り込んでいく。慣れないと体が斜面に近づくことによって、蹴り方向が斜面と同じになってしまうため、せっ
かくのステップは崩れ去り、同じ場所でもがく羽目になります。


こうして第一岩壁の基部に着いた頃になって、続々と後続の登場。
私たちも普通に朝食を取って出て来たのに、さては多くが出発を遅らせたのか・・・

岩の基部で、この状況の中進むべきか思案する。
スピードのあるお客様パーティーの方は何とかなるだろう。でも後続のもう1パーティーは、悪くすると顔に凍傷を作り兼ねなくなってしまう。

2パーティー居ても各にガイドが居るのだから選択支はあるのだが、だけど1パーティだけを下ろすのも、ちょっと気の毒ではある。
「後ろは久野に任せよう」とスタート。

でも風はやはり止んではくれない。

吹き上げの中を登ってきたお客様と共に同ルート下降に移るが、ガイド研修のパーティーも前後しただけに、これなら一般道から文三郎経由であっても歩いた方が、体温は維持できたかも
しれない。

気温は極度に低いわけではないが、凄まじいばかりの吹き上げで、度々視界が遮られる。とりあえず登って、あとは下降から確保講習に入る予定が、これだけの吹きさらしの中では、立ち
止まっただけで手足はたちまち感覚を失い、睫毛には氷の結晶が育って視野を狭めていく。

そんな中でも懸垂下降、ショートロープにロワーダウン、スタンディングアックスでの確保などをやっていたのだから、嫌でも風に晒される時間は刻々と増えていく。

もうデジカメで画像を記録するどころの余裕もなく、漸く安全圏に戻った後も、手は感覚を失い、爪先も加重するたび痛みが走る。
お客様は皆さん無事であったようだが、どうも最近感じるのは、私はクライミングによる体脂肪率の低下で、寒さの感じ方が酷くなっているのかもしれない。

自宅に帰って鏡を覗き、「お?頬がこけてるじゃない!」と思ったら、それはうっすらと付いた凍傷だった。
これまで結構気を使ってきたほうなので、凍傷なんて顔に作ったのは初めてのこと。
ガイドとしては勲章どころかカッコ悪すぎるだろう。しかも前歯を折ったばかりなのに!

はぁ〜・・・と、冷え切った体で、深いため息をつかずには居られない、そんな、クライミングジムでの夜なのでした(←だったら行くなよ?)




2009年1月19(火)〜20(水)

阿弥陀岳一般ルートからの下降
冬の阿弥陀岳は、登ることより下降することの方が、困難を伴います


本日のお客様は、遠くは屋久島から、近くは佐久からの二組です。

みなさんの4人の共通点は、若く、そして(偶然だけど)中3人は「I」ターン組だということ。

屋久島ガイドとして活躍する女性達と、介護士として活躍する男性達。
いずれも都会を離れ、その土地に生きることを選んだ若者達です。

こうやって土地に根付き、頑張る若い人が他にも居ることは、私たちにとっても心強いことです。
共通の話題も多く、介護の現場や屋久島話、酒を酌み交わしながらの夜は更けました。


話は一日目に戻りますが、赤岳の基本の講習はアイゼンワークです。
赤岳のお二人のアイゼンワークは、普段から山になれているだけあって飲み込みが速く、残りの時間は持参されたビーコンの使い方や、埋没救助の捜索をやるつもりでした。
しかし、結局は「アイスクライミングもやってみたい」とのご希望で、確保講習が済んだ阿弥陀岳組と一緒に、日が暮れるまで氷との格闘を行いました。

阿弥陀岳北稜組は、それまでに肩がらみでの確保(ビレイ)、器具を使ったボディービレイ、支点を使った確保等を経験し、友人同士、互いの信頼関係を高め合っておられました・・・(ソリで
凄い勢いで滑って滑落者役を演じる久野は、見ていて怖かったですが)

そして全員でのアイスキャンデー。

皆さん人工壁の経験はあるので理解が速く、男性陣は丁寧な重心移動、なぜか女性陣がパワフルな登りを見せて日没を迎えます。

二日目、もとは赤岳、阿弥陀岳北稜と別コースでしたが、赤岳組は雪山の経験は無くとも、前日のアイスクライミングで岩登りの経験はあることが解り、赤岳と阿弥陀岳、どちらへ行くかは
お客様の選択にお任せした結果、全員で阿弥陀岳北稜を目指すことになりました。

私たちのコースでは入山後、前日の講習で技量を見て、メンバーの力量に見合うコースに変更することもよくあります。
「ガイドの仕事は技量のサポートであって、体力面はお客様自身が持参してこられるもの」
と言う考え方のもと、技量が無くても体力があれば、上のレベルのコースへ変更することがあり、その逆はほとんどありません。体力が欠ける場合には、天候や下山時の余力などを考慮
し、それでも行けるところまでは登ってみるからです。

例え山頂に着かなくても、それはそれで前日の練習を活かした経験となるでしょう。経験には危険を伴わない程度の挑戦もまた必要ですし、折角ガイドを雇うならば、この機会に挑戦をして
いただきたいと思うのです。(ほとんどの方は山頂まで行かれますが)

さて、今回の赤岳組は、南国は屋久島から遙々来られたので、雪山経験は少なく、そして体力は有り余る女性お二人。
屋久島を案内されるので持久力はもちろん、ボッカ力も充分。お会いして最初に驚いたのは、その荷物の巨大さでした。
ビーコン、ゾンデ、スコップに着替えに、果ては小屋での自炊の野菜から、芋焼酎に鹿児島名物の豚味噌(今回はイノシシ味噌だそうで・・)まで、
「正月合宿で北アルプスに籠もるのでは?」と思われるほどの、大きなザックです。
(↑その割にはナゼか、女性のたしなみに最も重要かと思われる、日焼け止めクリームは入っていなかった?)


中岳沢よりのアプローチ

中岳沢から尾根に上がるところでは、トレースを外してのラッセル訓練、尾根上では沢の中との比較のために弱層テストを行い、ロープを繋いでからは二組に分かれます。

従来の阿弥陀岳北稜は確保講習なので、お客様は二人で互いにロープを結び、中間支点を使った同時登攀や肩がらみ、支点ビレイなどを実践していきます。そしてトップの安全確保も必
要なので、そのためのバックアップは久野が行います。

そして赤岳組の目標は、初めてのバリエーションからの登頂なので、お二人の確保は私が行い、お客様には登ることにのみ集中していただきます。もちろんお二人は仕事柄、人のサポート
もするので、その確保の方法や、目的はその場で説明しながら登っていきます。

 
岩を登り終えてリッジ上を行く


一般路の下降(一番下はお互いに確保し合うお客様パーティー、上部は更新研修中のガイド達)
実際にガイド中、ここをロワーダウンで降りる人なんて、見たことないけどなぁ・・・

この日の阿弥陀岳北稜では、日本山岳ガイド協会の資格更新研修も行われており、私たちにとっても、よりレベルアップを目指す今回のお客様にとっても、良い勉強の機会になりました。

「他山の岩、もって玉を攻むべし」
「人の振り見て我が振り直せ」

なかなか自分では気付けないことを、鏡として人から学ばせてもらう。

これは山に限らずとも、多くのことに関する、上達の秘訣ですね。


帰り道に登山道脇で出会った、顔そっくりのカモシカ母子



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山岳ガイド ミキヤツ登山教室は、夏山、冬山ともに国内では八ヶ岳、穂高・槍ヶ岳、剣岳、北岳、小川山、瑞牆山など、海外ではヨーロッパのシャモニ、ドロミテで山岳ガイド、登山教室、雪
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