八ヶ岳、小淵沢に住む山岳ガイド、加藤美樹・久野弘龍が、ヨーロッパ・シャモニやドロミテ、国内の雪山、冬山、バックカントリースキー、夏山、登山・クライミング教室、ガイドを行っていま
す。国際山岳ガイド連盟・日本山岳ガイド協会所属
<街>
ヨーロッパアルプスというとスイスの山々を思い浮かべると思いますが、私達の行ったのはヨーロッパアルプスの西端を成す、モンブラン山群です。この山群の盟主といえば、ご存じの通り モンブランですが、ここにはそのほかグランドジョラスやドリュ、そして今回の目標となったドロワットという大きな壁を持つ山々が多くあります。
この山群の登山基地はシャモ二です。この町はいわずと知れた遊び天国で、冬はスキー、夏には登山、パラパント、マウンテンバイク、ハイキングなどのスポーツが、まさに世界的レベル
から超初心者まで、それぞれのレベルにあわせて楽しめる、まさに日本では想像もつかないほどの盛況ぶりです。登山でいえば、グランドジョラス北壁を登りに行く輩もいれば、スポーツ店 で初めて登山靴、アイゼンなどを手に入れて、モンブランに登るんだと騒いでいる連中がいるような状況です。ハイキングに行けば、お婆さんがキッシュやパンの入ったかごをぶら下げて歩 いていたり、上半身裸の兄ちゃん達や、日本ではなかなか見られない女子高生ぐらいの女の子集団がいたりして、それも皆、日本のハイキングのツアー客が浮いてしまうぐらい山の格好を していない。とっても自由なんです。
シャモ二の街は、スポーツをせずとも楽しめるだけの景色、楽しみ方があります。特にこの楽しみ方ですが、この報告を読む方はできたらこうしてほしいのです。シャモ二で生活しましょう。
日本のツアーで時々あるような、夕方到着して、翌朝ケーブルで山を見て、昼には次の街に移動してしまうとか、シャモ二滞在が仮に2日間以上あっても、ホテルとレストランと土産物屋し
か行かないような滞在はやめて、もっと楽しみましょう。実際、僕らがシャモ二によく行くのも、山よりもこの生活が楽しいのですから。
スイスのアルプスと、ここシャモ二のアルプスの大きな違いは、生活があるかどうかです。スイスは観光地として完全すぎるのです。
<宿泊>
僕らはロジェールキャンプ場という、シャモにでも最も景色の良い(と思う)宿泊施設に滞在しました。シャモ二には多くの星付きホテルがありますが、きっとここからの景色が最も良いので はないでしょうか。モンブランはもとより、シャモ二針峰群からドリュまで見えて、特にドリュはここからがいちばん尖って見えるでしょう。
ロジェールキャンプ場は昔から日本人が多く訪れたキャンプ場で、日本人村とも呼ばれるほどの盛況ぶりでした。(多いときには100人以上がいた)。この当時のことを知る人ならわかると
思いますが、ロジェールキャンプ場の裏には池があります。昔はキャンプ場がこの池のところまで広がっていたようですが、今は100bほど離れています。そしてこの池は夕方、暗くなると シャモに針峰群やモンブランが夕日に染まる姿をきれいに写すのです。この景色はこのキャンプ場に泊まって、かつ知っている人のみの景色です。
そしてここはキャンプ場ゆえにとっても安い。当たり前ですが、ホテルなんかよりも安い。2人で12ユーロ、1,400円ぐらいです。しかし、たかがキャンプ場と侮ってはいけません。温水シャワ
ーは当たり前、酒を飲んだり軽食もできるバーもあるのです。そしてそんなわけでこのキャンプ場は三つ星なのです。(本当にキャンプ場が星でランク付けされているのです)
他のキャンプ場もだいたい似たような設備ですが、バーが有ったり無かったり、あるいは屋台(鳥の丸焼屋かピザ屋)の出るキャンプ場もあります。
<生活>
一日の生活は山に入っていない限りはパンを買いに行くことから始まります。パンといってもヤマザキや敷島などの食パンではなく、バゲット、フランスパンです。
朝のパンの買い出しはとっても大事で、パンが主食のようなこの国では日本のパン屋のように朝の出勤にあわせてオープンするということはなく、既に6時、7時からあいています。そし
て、この時間はパンが焼きたてなので、最も美味しいパンが食べられるわけです。フランスに行って、食べ物で一番感動し、そして今でも楽しみなのは、レストランの食事でなく、この朝のパ ンだといっても過言ではないでしょう。
シャモ二にはパン屋が数軒ありますが、小さな街にもかかわらず勢力争いがあります。第一勢力はかなり強力で、通称「教会のパン屋」で、教会のすぐそばにあります。ここは朝から夕方
7時まであいていて、いつも人でいっぱいです。こういうと、美味しいから人が入っているのかと思いますが、さにあらず。シャモ二の中心にあり、パンの種類も多いからです。買いに来る人も 短期滞在の人が多いようです。
そして、このパン屋は支店が多く、ここで焼いたパンを他の店にも卸しているのです。毎年シャモ二でパン屋が増えていますが、ここの支店であり、ここから仕入れているパン屋も増えてい
ます。しかし、ここのパン屋はシャモ二に行くたびに味が落ちているようです。シャモ二の住人に聞いてみてもそういっているので間違いないでしょう。こんな小さな街のパン屋事情を見てみ ても、消費者にとって独占がいかにマイナスかがうかがい知れるものです。
他の勢力はといえば、後述するスーパーのパン、細々と焼き続けている「近所のパン屋」が数軒あります。
私達のお気に入りは、シャモ二の隣町、「プラ」にある食料品店で売っているパンです。食料品店といっても6坪ほどの店で、品揃えはたいしたことはありません。昔あった八百屋の方が
遙かに多いでしょう。
私達はそこで売っているバゲットを「プラパン」と呼んでいて、工作の部品のような名前ですが、とっても美味しいんです。外の皮は薄く、パリパリ、中はモチモチのバゲットです。ちなみに
「教会のパン屋」は中はモチモチなのですが、外の皮が厚く、少し堅いのです。
ここのプラの食料品店はバゲットの他にキッシュというパイのようなものもシャモに周辺では一番だと思います。
シャモ二には「さつき」という日本食レストランがあります。故中野融さんの奥さんが経営している店で、シーズン中はなぜか日本人観光客でにぎわっています。このさつきの向かいと並び
にそれぞれ小さなパン屋が2軒あります。
向かいのパン屋は、朝早くから開いているので、早朝から山に行くときに利用するぐらいで、味は特に印象はありませんが、他のパンはとっても高いという印象があります。しかし、こんな
パン屋でもファンはいて、キャンプ場の住人である僕の友人はここのパン屋のファンで、いつもここです。
<サンドウィッチも美味しそうです。奥にあるのがキッシュです。美味しいのです。>
もう一軒のならびにあるパン屋は、味はもしかしたらプラパンをしのぐかも知れません。しかし、ここは店の雰囲気がどうも気に入らないのです。フランス語をしゃべれない私達をからかって
いるようなふしがあるのです。実はプラの店もフランス語しか通じませんが、ここのおかみさんはいい人で、僕らのことを短期の滞在者としてではなく、まるで住人のように接してくれます。な れないユーロの支払いで困っていると、ちょっと財布を貸しなさいと言って(いるようだ)、じゃあこれだけ貰っていくわよと言って(いるようだ)、会計の手伝いまでしてくれるし、顔を見れば挨 拶してくれるし、朝、店に入れば僕らが話す前にバゲット二本ねと言って包んでくれる。時々おまけもしてくれる。
そんなわけでやっぱりプラパンなのです。
<こんな、ケーキまで売ってます。>
他の、スーパーのパンは論外。ただ、ホテルアルピナという日本人ツアーのよく使うホテルの下にあるコデックカジノというスーパーに隣接するパン屋は美味しいという話ですが、ここで焼
いていないこともあり、僕らは買ったことがありません。
どの店にもいえることですが、バゲット以外にも、僕らが黒パンと言う黒っぽいパンも売っていて、ちょっと高いですが、それなりに美味しいものです。
ホントはパンの話をもっとしたいのですが、先に進まなくなるのでこのくらいにしておきます。
続いて、パンの食べ方ですが、僕はそのまま食べることが多いです。パンを買ってキャンプ場に帰るまでに3分の1が既に食べられます。バゲットを小脇に抱え、それをほおばりながら歩く
姿は、何もパリの娘達だけがすることでなく、親父も、おばさんも、兄ちゃんも、むさい日本人すらするのです。温かいバゲットを手にしてかじりたくならない人はいないでしょう。
残りの3分の2ですが、キャンプ場で食べます。テントの中で食べずに、キャンプ場のテーブルで、朝日を浴びて山を見ながらの朝食です。
僕らの朝食はだいたい目玉焼き、レタス、ミルクティーに、ニンニク入りのクリームチーズ、マーガリン、ムテラ(ヌテラだったか)というチョコクリーム(久野専用)でパンを食べます。
バゲットは日本のように輪切りにはしません。日本だとパンが中も外も堅いので輪切りにしますが、こちらでは10p程度に切って、それを縦に割って平たく広げて食べます。
朝食が終わった後は山へ行かないときは山のルート図を見たり、洗濯したり、テントを片付けたり、あるいは裏山へハイキングに行ったり、あるいは氷河に行ってアイゼンの練習とか、救
助の訓練とか、アイスクライミングの練習をします。
山の報告は今度にして、裏山のハイキングについて。
シャモ二の場合、裏山といっても日本の北アルプスのような山容です。シャモ二が標高1000bであり、2000bぐらいまでケーブルで上がることができますが、もったいないのでいつも
下から歩いて上がります。氷河に行くときも一緒です。
ケーブルを使わない理由はこの貧乏くさい理由以外にもとっても楽しみなことがあり、7月も中旬になると2000b以下の樹林帯にはブルーベリーやイチゴなどがたくさんなっていて、食べ
ながら歩くことができるのです。もちろんただです。特にブルーベリーは日本でブルーベリー狩りといって高いお金を取られるのが不思議なぐらいどこにでもあり、採ろうと思えばバケツに何 杯もとれるでしょう。
今年は7月の初めに帰ってしまったのでこの楽しみはお預けでしたが、ベリー類は8月の下旬までは何かしらが採れるので、行った方は楽しんでください。
ハイキングに行くときは、朝のバゲットを2本買っておいて、一本をザックに差して、チーズやらサラミやらを持って上がります。シャモ二にはコンビニは無く、お弁当も売っていないので自分
で用意します。ただし、パン屋に行けばサンドイッチが売っていますが、高いし、別に自分で作っても一緒なので、持っていった方がよいでしょう。
コースはいろいろありますが、これも次回ということで。
シャモ二のハイキング事情
<ラック・ブラン>
ヨーロッパアルプスのハイキングというとスイスのハイキング、モンブランを一周するように回るトゥール・ドゥ・モンブラン、トゥール・ドゥ・マッターホルンなどが有名です。
シャモ二のハイキングはそれらと比べるとスケールは小さなものです。スイスでよく想像されるような大きな草原はありません。だからハイジもペーターも出てきそうもありません。ヨーゼフ
が寝ていることもありません。ましてユキちゃんが突然出てくることはありません。しかし、ピッチーや羊は沢山います。
シャモ二のハイキングが魅力的でないという話ではありません。たしかにツアーについて行くようではそれほどの魅力はないで
しょう。シャモ二のハイキングは積極的になればなるほど、望めば望むほど楽しくなります。自分の自主性が大事です。
コースはいろいろありますが、一般的なことはガイドブックに任せましょう。今回は変わった楽しみ方を。
まず一番に進めたいのが、ラック・ブラン。シャモ二で最も有名なハイキングコースです。ほとんどの人は日帰りで行きますが、ここでは小屋で泊まることをお勧めします。絶対に。
ラック・ブランは、モンブランやグランドジョラスがある4,000b級の雪山が連なる「表の山」に対し、僕らが裏山と呼ぶエギユ・ド・ルージュ(赤い針峰群)と言われる山稜の中腹にあります。
裏山は標高3,000b前後の山稜です。その2,000bあたりにあります。フランス語で「ラック/lac」は湖です。ここのハイキングはこの湖を見に行くというものです。
しかし、行ってがっかりさせないために。このラックという言葉。水たまりにも使ってもいいのではないかと思える言葉だということを覚えておいてください。
ラック・ブランは確かに日本の感覚からいえば水たまりでしょう。しかし、そこから見える景色、ラック・ブランを前景に観る周りの景色はまさにワールドクラスです。どんな景色かはガイドブッ
クに任せましょう。
では、ガイドブックに載っていない話を。ほとんどの観光客、日本人もヨーロッパの人間もこの景色を見ると、その日のうちに帰ってしまいます。しかし、ここラック・ブラン、いや、この裏山
(赤い針峰群)すべてに言えることですが、夕暮れが最も美しい。夏の間は日没が9時から10時なので夜と言っても良いかもしれません。
太陽はちょうど裏山側に沈んでいくので、ちょうどグランドジョラスやシャモに針峰群、ドリュやベルトに夕日の赤い光線があたり、雪山が真っ赤に染まるのです。
氷河の周辺にある山小屋に行けばいくらでもこの夕日に染まる山や、壁を観ることができます。それこそ、クーベルクル小屋に行けば真っ赤に染まるグランドジョラスを観ることができま
す。もっと近く、レショ小屋に行けば真っ赤なグランドジョラス北壁が視界に入りきらないほどの迫力で迫ってきます。アルジャンチエール小屋に行けば、真っ赤に染まったドロワット北壁、ク ルト北壁、ヴェルト北壁、トリオレ北壁などの1,000b以上の壁が2キロにわたってつづく景色が観られます。
しかし、ここラック・ブランはこれらとは全く違う迫力があります。暗くなったなか、モンブラン山群の山々のほとんどが真っ赤に染まって、しかもラック・ブランという水たまり、いや、失礼、湖
を前景に観られるのです。当然、この水た、いや、湖にそれらが写っています。
あえて写真は出しません(ただ無いだけだったりして)。皆さんで見に行ってください。
ラック・ブランの脇には山小屋があります。日本の山小屋とは全く違う小屋です。
ヨーロッパの山小屋は一部の小屋を除いて食事はとっても美味しく(サラダかスープと必ずチーズにパンかパスタ、肉などのメイン料理、デザートが順に出ます)、寝るスペースもどんなに
混んでも布団1枚に2人、3人ということはありません。予約制が当たり前であり、予約しないで山小屋に行って、その日が既に定員に達していると平気で追い返します。泊まる装備が無く とも追い返します。日本の場合は危険ということで必ず泊めますが、ここはそんなことはありません。予約も定員に達するとそれ以上は受け付けません。
日本でも予約をしっかりとして山に行きましょう。それで混雑が解消するのはまだまだ先でしょうが、小屋の人は準備などでとっても助かります。
ラックブランの小屋ですが、これら高い水準の山小屋の中で最も料理がよく、サービスも良い。景色も含めれば下手な星付きホテルよりも良いでしょう。シャワーもあります。
1泊2食付きで昨年で265フランだから5,000円程度でしょう。他の小屋の水準(3,000円程度)からすれば遙かに高いですが、日本よりも遙かに安い。
ここの小屋は他の山小屋と違って翌日登山をするような人は来ないので(他の小屋は早い人は夜の0時に、遅くとも4時には登山に出発する人たちが泊まる)、よるはだいたい酒が入っ
て、言葉が通じなくとも楽しい夜を過ごせます。イタリア人やスペイン人が来ればそれこそお祭りでしょう。
夜の楽しみをもう一つ。これも景色の話ですが、モンブランは4,800b、他の山々は当然これより低いので、モンブランだけが最後まで赤く光っています。他の山が既に青白く光ってきてい
るのにモンブランの頭だけは赤い帽子をかぶっています。
翌日、ラック・ブランからは頑張って、コル・デ・モンテまで歩くと最高です。赤い針峰群の終わる所です。ここからは変わったアングルからモンブラン山群を観ることになるのでとっても綺麗
です。ちなみにこのコース、ツールドモンブランのコースです。ほとんどのツアー、観光客は行かないけど。シャモ二周辺でこのコースへ行かないのはもったいない。まあ、ホテルの関係で、 大手ツアーでは無理だと思いますが。
最も良い時期は8月中旬以降の、ラック・ブランから雪が消えた頃。それより早ければ特に7月中旬頃であれば、ものすごいお花畑が広がっているので、それも良い時期でしょう。7月の
下旬であれば下山途中や、コル・デ・モンテではブルーベリー狩りをしながら歩けるので、それもとっても良いでしょう。いつでも良いです。とにかく、ラック・ブランで泊まりましょう。 <プラン・ドゥ・レギーユ〜モンタンベール> このコースもほとんどのツアーで行っているコースです。多くの場合、ミディの頂上に行って、その帰りに中間駅で降りてモンタンベールまで歩くというものです。
このコースの楽しみ方は、いかに気軽に行くかです。登山の格好なんていりません。登山靴程度はあった方がよいでしょうが、大きなザック、羊、山羊と間違いかねない熊鈴なんてのは
恥ずかしいからはずしましょう。日本人が来るとだいたい解るのです。 中国人、韓国人も団体で歩いていますが、それらと見分けるコツは、
@長袖を着ている集団は日本人。
A鈴の音が聞こえても、羊や山羊などの獣の臭いがしなければ日本人。
Bハイキングでポケットの多いベストを着ていたり、冬山用のアンダーウェアを着ている人が一人でもいたら日本人。
C晴れているのにスパッツを着けている人がいたらその集団は日本人。
よく、日本人はカメラを首からさげていて、よく写真を撮るとかいわれてましたが、外国人もよく採るし、中国人はもっとすごい。すぐ解る。逆に日本人の方が写真は撮らなくなっているような
気がします。カメラもぶら下げていないし。
それで、ハイキングですが、もっと気楽に行きましょう。コースタイムも通常よりも多めにとっていきましょう。だから、ミディの帰りに行くのは辞めた方がよいでしょう。
服装は、暑いときはとても暑いので、出来る限り薄着に。ガスが出て風が出ると、とっても寒いのでその日のコンディションにあわせます。間違っても全部持っていって、荷物を多くしては
いけません。
行動食も、あめ玉を1時間に1コずつなめるとか、チョコレートを食べるとかそんなことは考えてはいけません。これは登山ではなく、ハイキングなのです。
荷物を減らすことができたら、その分、パン、チーズ、飲める人はワイン、ハム、購入できればキッシュを持っていきましょう。サラダを持っていっても良いでしょう。ホテルでサンドウィッチを
作って持っていっても良いでしょう。とにかく豪華に。もう一度、これはハイキングなのです。
歩き始めればすぐに解ると思いますが、このコースは大岩がゴロゴロしていて休む場所が沢山あります。その気になれば何時間も休んでいられます。しかも、景色は最高。右手に見える
シャモに針峰群の北面は標高差1,000b以上あるのです。場所によっては1,500bはあるでしょう。これらを観ながら1時間に一回以上は休みながら歩く。
この針峰群は、ミディ、プラン、カイマン、フー、ブレティエール、グレポン、グランシャルモなどの主稜線上の主なピークをはじめペイニュ、ペルランなどのアレック・ギネス(スターウォーズ前
3部作のオビワン役)クラスの名脇役もある。シソー、レピネイなどの、その他の通行人にしておくのはもったいないぐらいの有名な役者もいる。
針峰群の端から端まで歩くのだから当然見える角度、見えるピークも変わってくる。光の当たり方も変わるから見え方も違ってくる。これらを休憩するたびにピークを地図で調べる。めんどく
さく思うかもしれないけど、やり始めて、名前が解るととっても楽しくなります。花の名前と一緒です。
花、山のピークは山に行けば、近くに行けばいつも観るものです。その名前を知っているかいないかでまったく親近感が違ってきます。だいたい人間関係にしても、よく会うけど名前を知ら
ない人って沢山いるし、話をしても名前を知らないこともある。話はしないけど親しく感じる人もいるし、話をしても親しく感じない場合もある。それらの大きな違いって、名前を知っているかどう かだと思うのです。それ以前に人間関係だったら、よく会う人、話す人の名前を知らないのって失礼ですよね。山も一緒です。花も一緒です。自分の言葉のように言っていますが、八ヶ岳・ 青年小屋の主人で山岳ガイドの竹内さんが教えてくれたことです。
知れば知るほど親しみがわきます。この際、針峰群の名前をすべて覚えて街に降りましょう。
そして街からそれらの山を振り返ってみてください。もっと、もっと近くにその山を感じることができるでしょう。ちょっと頑張ればそれらのピークにも登れるし、もしかしたら数年後にホントにど
れかのピークに立っているかもしれないのですよ。
話は戻って、1時間に一回以上休みながらそれらのピークを調べて、マーモット(たかが大きなネズミですが)を探し、声を聞き、そして、お昼になったらもっと長い休憩をとりましょう。大きな
岩のある所がよいでしょう。できれば、岩の上で食べて寝られるくらいがよいでしょう。ちょっと脇にそれればいくらでもあります。そこでゆっくり食事をとります。
モンタンベールに近づくと、突然ドリュが現れます。ホントに大きな姿で天をついています。左右にはギザギザの山稜を従えているので、羽を広げた鷲のようです。
モンタンベールからはメール・ド・グラスという氷河の奥にグランドジョラスも観ることができます。しかし、ここの楽しみは他にあります。一般的なことはガイドブックに任せてその話を。
モンタンベールとシャモ二の間は登山電車が走っています。走っているというよりは歩いているぐらいのスピードですが。その赤い電車と景色を最も良い構図で見られる所をご案内します。
モンタンベールはシャモ二から歩いても行けて、道がしっかりついています。その道をモンタンベールから10分位降りていくと石造りの鉄橋が現れます。登山電車の鉄橋です。その鉄橋
の端、レールの脇に陣取りましょう。あまり近づくと危険ですが。
そうすると、線路の通っている部分だけ木々が開け、そこにドリュの鋭鋒がすっぽりと収まります。しかしここで写真を撮ってはいけません。列車が来るまで待ちましょう。真っ赤な電車、
木々の緑、3本のレールの黒、鉄橋のベージュ、空の碧、そして、ドリュの岩の色。とっても綺麗です。写真にとっても撮らなくても、目に焼き付けられる景色でしょう。
シャモ二への下山はこの電車に乗ります。
この電車は登山電車なので、ラックレール(レールとの間に歯車があり、それで登下降する)で動いたり、よく見ると座席が傾斜の強くなったときのために傾けて取り付けてあります。だか
ら、平坦な駅ではちょっと座りにくく感じるでしょう。
座るときはシャモ二行きの進行方向に向かって右側がよいです。どれだけ傾斜の強い所を走っているかがよくわかります。
シャモ二に帰って、晴れていれば上とは違って灼熱地獄に感じるでしょう。街でアイスクリームを食べて今日の行程終了です。
時間があれば、シャモ二のプールへ行きましょう。シャモ二に水着は必須です。無ければ水着なんてスーパーで売ってます。
プールでモンブラン、シャモ二針峰群、ドリュなどを眺め、空のパラパントをボーと観ながら食事の時間まで時を過ごしましょう。街をうろうろしたり、ホテルに閉じこもるより気分が良いです
よ。
<フローリア小屋>
フローリア小屋へ行く方法はガイドブックを見てください。最近はガイドブックに載ったために日本人もよく来るようになりました。標高1400bぐらいにあり、シャモ二の街から歩いて30分ぐ らいで行ける所です。ここは小屋をたくさんの花で飾ってあり、花の小屋として有名です。
ここの主人は、僕らが「フローリアの旦那」と陰で呼んでいるのですが、昔ガイドをしていたのか、日本語の挨拶を知っていて、僕らを見ると日本語で挨拶してくれます。暇を見つけてはここ
まで走るのでよく行くのです。この旦那、年は60は越えているように見えますが、娘のような奥さんがいます。とっても仲がよいのです。
更に関係ない話ですが、この二人の車は、以前は日産テラノでした。今はトヨタランクルにグレードアップしています。こういう事を見ると日本が好きなのかも。
どこの出版社だか知りませんが、「シャモ二のハイキング」というガイドブックがあります。これにフローリア小屋がカラーで載りました。その年は、日本人が来ると、どこで手に入れたのか
そのガイドブックを持ってきて、「俺の小屋が載っている」と自慢し続けたようです。
フローリア小屋は宿泊する小屋ではありません。山のカフェテラスといったものでしょうか。日本風に言えば、山の茶店といったものです。
さて、ここからが本題です。
フローリア小屋に行くのは、昼間に行ってはいけません。別に、行っても悪いことはないですし、景色も、人もすばらしいのですが、一番すばらしいのは夕方です。夕暮れ(夏なら21時頃)
にあわせていくと、山が真っ赤に染まります。ドリュからシャモ二針峰群、モンブランまで。シャモ二は夕方以外に見るべきところがないと言っていいほど、夕暮れ時が綺麗です。景色を楽し むなら絶対夕暮れ時で、街の雰囲気、リゾートを楽しむなら昼間です。朝は(山には入らない限り)大したことありません。
<登山>
シャモ二の登山といえばモンブラン。でも、モンブラン以外にもたくさんの有名な山があります。グランドジョラス、ドリュ、ベルトなど、見たことはなくとも、あるいは聞いたことはなくとも、知ら ず知らずの間に目にしている山があります。
たとえば、ドリュ、ベルトなんかはタバコの宣伝によく出てきます。僕は吸わないのでどんな銘柄だったか解りませんが、自転車に乗った兄ちゃんのバックに写っています。2003年2月現
在、タバコの自販機に写っているのはシャルドネあたりから見たベルト、ドロワット、クルトの北壁群です。
言葉ばっかりではよく解らないので、写真でも入れましょう。
モンブランは確かに有名です。だからこれは別格として話をしますが、フランス人はベルトという山を好きなようです。僕の勝手な想像ですが。
雑誌を見ていても、話をしていても(といっても話になっていないが)、ベルトという山の話がよく出てくる。そういう僕も一番好きな山はこのベルトです。
「俺はベルトに登ったことあるんだぜ」
「おまえはベルトに登ったことあるのか」
「俺はいつかベルトに登るんだ」 というようなことをよく言われる。
雑誌には確かにグランドジョラスとかドリュとかの難しい壁に新ルートを築いたとかで写真が載ることが多いのですが、ベルトはそんなルートの説明とは別で、広告によく使われたり、シャ
モ二の街を説明する文章の後に何気なく使われたりしているのです。
話が面白くありませんが、とにかく、僕がベルトを好きなだけで、ただその宣伝です。
<モンブラン>
さて、この文章を読まれている方は少なからずこの山に興味があるのではないでしょうか。何といわれようともヨーロッパ最高峰(イメージの中のヨーロッパというだけで、実際はエルブルー スという山だけど)だし、富士山より高いし、あのマッターホルンよりも高いのです。
マッターホルンよりも尖っていないし、グランドジョラスよりも登るの簡単だし、アイガーよりも危険は少ないし。
モンブランの魅力は5000bに近い高さでありながら、難しくはないということです。その割には氷河はあるし、雪山だし。7000bに近いが雪も氷河もないアコンカグアなんかよりも登山
としては楽しいのではないでしょうか。
モンブランに登るには沢山ルートがあります。それこそ、トップクライマーがかろうじて登れるルートから、初めてアイゼンを履くに等しい人が頑張って登れるルートもあります。
一般的なルートとしては3つのルートがあります。
@グーテ小屋から行く、グーテルート
Aグランミュレ小屋からボソン氷河上部を行く、グランミュレルート
Bミディからタキュル、モンモディ、モンブランへと縦走する、三山縦走ルート
それぞれのコースの説明をしていきますが、他のガイドブックのようなことを書いても面白くないので著と違った視点から書いてみましょう。
@グーテルート
これは最も登りやすいかわりに、最も楽しくないルートです。
なにが楽しくはないのか。小屋が悪い、ルートが単調、人が多い。
小屋は重要です。ヨーロッパの山小屋はご飯が美味しいし、それほど汚くはありません。僕の好きなアルジャンチエール小屋はご飯は美味しいし、景色もとてもよく山に登らずに一日を過
ごしたこともあるくらいです。しかし、このルートにあるグーテ小屋は仕方のないことですが、人が集まりすぎて満足なサービスを受けることが出来ません。ご飯が美味しくない、寝る場所が 狭い、対応が悪いなどです。
しかも、2002年からは小屋番が代わって、予約をしたのに食堂に寝させられたとか、入れてもらえなかったなど、混乱を来したようです。2003年以降はどうなるかはわかりませんが、6
月に入ってからでは7月・8月の予約が取れないことを頭に入れておく必要があるでしょう。ホントかどうか解りませんが、4月には予約を入れた方がよいという事も言われています。
ここら辺の山小屋は予約を入れていないまま山小屋に行くと、ホントに中に入れてもらえないことがあります。日本の山小屋と違い、避難所的な意識が高く、天気が悪くないと外で寝ろな
んて事は平気で言われます。
でも、僕が単独でチョッと難しいルートへ登りに行った時、降りてからとても疲れてしまい、予約無しで超満員の小屋に行ったことがありますが、どこどこのルートを一人で登ってどうしても
疲れたと話すと、寝る場所を空けてくれてくれたこともあります。
さて、ルートのことですが、問題になるのはグーテ小屋までのガレ場のトラバースでしょう。このトラバース道の上を更に人がトラバースしていて、毎年ここで落石事故があります。ある日本
人の事故では頭に落石を受けて頭が半分吹っ飛んでしまったそうです。下を向いて歩く癖のある人は早くなおした方がよいでしょう。
モンブランは簡単に4800bまで登れるでしょう。しかし、そこに大きな落とし穴がありあます。きっと5000メートルを少しでも超えていたらもうチョッと意識は変わるでしょうが。
天候が悪い時は全く手の出しようがありません。また、雪の降る量は想像がつきません。遮るものとてない、最高峰ですから、とにかく荒れまくります。また、傾斜が緩いのでとにかく雪が
積もります。シャモ二で雨が降ればモンブランは間違いなく雪で、2/3日は登山になりません。また、アプローチの段階で雪崩の可能性があります。そう、グーテ小屋に行くまでにです。
高度の影響もあります。高山病はよく解らないことがあるようですが、弱い人は穂高の涸沢で亡くなる方もいるくらいです。調子が悪ければ、ヒマラヤの経験のある方でも高山病の症状が
出ることがあります。
また、体力のある人は5000b程度なら高度順応が出来ていなくても我慢して登れてしまいます。しかし、その行為は死と隣り合わせであることを理解して下さい。私の友人も高山病で
なくなってしまいましたが、我慢していたのかもしれません。
話が長くなってしまいそうなので、グーテルートに話を戻しますが、ルート上にバロ小屋という避難小屋があります。この小屋はあまりあてにせず登山をした方が賢明です。この小屋を使う
時というのはきっと気象条件などのトラブルが起こった時だと思いますが、天気の悪い時はこの小屋を見つけることは至難の技です。実際、天気の悪い時に登山を行い、小屋の数十b手前 で亡くなっていた方もいます。探し出せなかったためです。
初めのところで、グーテルートは楽しくないと書きましたが、それでもやっぱり稜線上で晴れていればとっても綺麗なので、頑張って登ってみましょう。
Aグランミュレルート
よく下降に使われるコースですが、ボソン氷河が荒れているため、結構危険なルートです。あまりお勧め出来るコースではありませんが、それでも最もシャモ二から近いルートです。
では、このコースの楽しみ方を紹介しましょう。それは速攻登山です。
シャモ二の街からモンブランまでは標高差3700b。街からほぼ直線的にモンブランの頂上まで登ることができます。これをタイムトライアル形式で登るのです。
ちなみに最短記録は往復で(片道なのかもしれない)、8時間。いずれにせよ往復で24時間以内ならかなりのものでしょう。そう言う僕はまだ試したことがありません。
B三山縦走ルート
モンブラン三山(タキュル、モディ、モンブラン)を縦走するコースです。僕はこのコースが一番のお勧めです。
お勧めの第一のポイントは、ミディの駅でビバークすれば安い!という事ではなく、ルートが変化に富んでいるし、比較的安全ということでしょう。さらに、このルートのスタートはミディの駅
周辺ですが、小屋を利用するにしろ、ビバークするにしろ、一日目はミディ南壁やタキュルの東面で遊ぶことが出来ます。そして深夜2時頃になったら、スタートして12時間行動でモンブラン を往復してくる。体力的にはきついですが、きっと充実します。
あるいは、タキュルの東面のバリエーションルートを登って縦走路に合流し、そのままモンブランに向かう。これも面白いでしょう。
さらに、モンブランからミディに帰ってくる時、ミディへの登りはコスミック稜を登ってくると良いでしょう。日本でいえば、八ヶ岳の赤岳主稜をもっとすっきりさせて上等にしたようなコースで
す。難しくはないので、ガイド登山であればこれも可能でしょう。
ミディ周辺の小屋はシモン小屋だけですが、ここの小屋は高いけど(と言っても5000円程度)、料理はよいようで、結構評判は良い小屋です。
ミディの駅でビバークする方へ。
本当は禁止されています。が、していても怒られません。しかも、良い場所を教えてくれるし、トイレも空けておいてくれます。
ここでビバークするのはかなり快適です。チョッとうるさいですが、それほど寒くないですし、展望台に夜になってもいられるのはとても有利です。景色がとっても良いので、お勧めです。
ビバークと言っても、ひもじいものではないので、食材は沢山持っていきましょう。登っている間は荷物を駅から持ち出し、バレーブランシュに降りたら、トレースからチョッと離れておいてお
けば、まず大丈夫でしょう。
モンブランはチョッと頑張れば登れる山なので、頑張っていってみましょう。
<クルト>
「レ・クルト」 ちょっと聞き慣れない山ですが、モンブラン山群でお勧めの山といえばこの山です。シャモ二はモンブランだけでな いのです。
そこで今回はレ・クルトのノーマルルートを紹介しましょう。
・・・つづく
山教室、クライミング教室を行っています |