八ヶ岳、小淵沢に住む山岳ガイド、加藤美樹・久野弘龍が、ヨーロッパ・シャモニやドロミテ、国内の雪山、冬山、バックカントリースキー、夏山、登山・クライミング教室、ガイドを行っていま
す。国際山岳ガイド連盟・日本山岳ガイド協会所属
まだ8月だというのに、この日の赤岳鉱泉は7時で5℃!稜線は0℃で赤岳山荘では8℃だったそうです。
難易度のある大同心でのフリークライミングには、あまりに寒すぎると、西壁側に日の当たり始めるのを赤岳鉱泉でしばし待つ。
大同心稜を歩くのは流石に私たちだけかと思いきや、1ピッチ登ったあたりでどう見ても普通の登山者の夫婦連れらしき二人が登ってきた。
例え沢の入り口に「この札は沢への立ち入りを禁止するものではありません」と但し書きがしてあっても、この大同心稜が普段岩登りもしない登山者にとっていかに危険なものなのかが理
解できないのだろう。既に何人もの一般登山者が亡くなっている場所なのだ。
「この先は危ないですよ」と声をかけても、「危なそうだったら戻ります」という返答で、よくは解っていないことが見て取れる。
行き詰まってしまってから、戻ることこそが危ないのに・・・
オイラはへ〜、どこだって大丈夫だんべ
1ピッチ目から被ってます
スタートするAさん
流石は普段、豊田の岩場で鍛えてるだけあります。体がしっかり岩から離れてます。
青空に向かって抜けていく瞬間こそ、岩登りの醍醐味です
実はこのピッチだけ、かなり浮石が多くて要注意です
傾斜の強い岩より、この積み木のような石が、草付から外れやすい
微妙な動きがいるが、丁寧に登れば大丈夫
Aさんも両側の岩を上手く利用してクリア
トラバースへ
核心の最後のピッチへ
垂直から薄被りへ
ガンバです
おっと?かっこいいキョン足ですね
この薄かぶりの上はホールドが遠く、体が小さいとちょっと辛いが、小さい人はガンガン足上げていきましょう!
山頂からは1ピッチ懸垂して、大同心稜を戻りましょう。
この時期に稜線へ抜けるべきではありません。
這松の間の砂礫は、全てコマクサの生息域です。
ですから、大同心稜を歩いて抜けるのも、控えるべきでしょう。
+大同心での遭難救助 10月13日(土)
赤岳鉱泉へ向かっていく時、北沢の向こうに見える目立った壁があり、それはまるで大仏が横を向いているように見える姿から大同心と呼ばれています。今回はその大同心をフリークライ
ミングで登ってきました。また、今回は他パーティが隣のルートで怪我をして、救助をするというおまけ付きでした。
大同心の登攀というと、冬季に行われることが多いのですが、その場合アブミを使った日本的人工登攀になってしまい、冬季登攀ということを抜きにすれば、いまの技術レベルからすれば
全く面白みのないものです。しかし、支点が整備された現在、夏にはオールフリーで登ることができ、印象は大きくかわります。
グレードは5.9(Y)程度で、他のクラシックルートほど簡単でないため、常に練習していないと楽しめないが、チョット頑張っている人には楽しめる丁度良いレベルです。
ルートは雲稜ルートで全5ピッチ。夏の大同心で登られているのは、他には南稜ルートがありますが、それはもう少し易しいため、最終ピッチのドーム(頭部分)は人工で登られているよう
です。しかし、雲稜ルートは下部2ピッチが難しいため、ここをフリーで登る力があれば、南稜の場合に人工となる最終ピッチは快適なフリークライミングが楽しめます。
大同心はかなり傾斜の強い壁で、そのために人工登攀主体で登られてきました。しかし八ヶ岳特有のホールドがたくさんある岩は、それらを駆使すれば、かなり高度感のある壁を、まる
で人工壁や石灰岩のルートのように楽しむことができます。
ルートは1ピッチ目が垂壁からハング越えの5.9。2ピッチ目はクラシックラインから外れて、右側の垂壁から凹角を登る、ちょっとテクニカルなクライミングで要リーチ。ここが核心のような
気がして、5.9。3ピッチ目はちょっと脆い、日本的クラシックルートで5.5。4ピッチ目はドームのトラバースも含み5.7位。最後はドームのカンテラインを登る、高度感のあるピッチで5.9。
最初の2ピッチと最終ピッチが同程度の難しさで、核心です。最初のピッチで不安を感じたり、実力がないと思ったらそこから降りるべきです。つまり、2ピッチ登るまでに人工登攀をしてし
まったり、A0をしてしまったら、そこから降りることが出来ます。フリークライミングを楽しむためにも、それ以上は登らずに降りて、実力をつけてから再度挑戦すべきです・・・というのは理想 で、べつに登れなかったらA0しようが、人工だろうが問題ないでしょう。またいつか挑戦すればよいのですから。
ここのルートはよい目標になるとは思いますが、最終目標にはなりえません。なぜなら、ここでのクライミングは次のクライミング・登山への刺激になるからです。こんなに楽しいクライミング
があるなら、他でもしてみたい。アルパイン・フリークライミングの楽しさを再認識させてくれます。
いずれにせよ、もしかするとクラシックルートとしては最も良質なマルチピッチのフリークライミングが、八ヶ岳という手軽に行ける山域で、しかも2800bという高所で楽しめるのは凄いこと
だ。
朝9時に家を出て、赤岳鉱泉に10時30分頃に着く。小屋で柳沢太平さんにお茶をいただき、11時頃まで話し込んでしまう。
急いで大同心稜を登って大同心取り付きへ向かう。最初は樹林帯の急登で視界も効かないが、樹林帯を抜けると、突然大同心が目に飛び込んでくる。この時紅葉は終わっていたが、紅
葉の時期には最高だろう。
大同心取り付きには12時頃に着いた。この時さらに上部から人の声が聞こえてきたが、その時は誰かいるのだろう、程度に思っていたのだが、これが事故の時の声だと知るのは1時間
後でした。
ここから見上げる大同心は、なかなか大きい。ルートはちょうど真ん中を登っていきます。
大同心稜から少し降って、雲稜ルートに取り付く。
1ピッチ目、久野リード。八ヶ岳特有のコンクリートに石をはめたような岩に恐れをなしながら登り始める。手にしたホールドが抜けるのではないか。足を乗せたフットホールドが外れはしな
いか。しかしハング帯が近づいてきて、さらにそれを登る頃にはすっかり慣れてきて、クライミングを楽しんでいる自分に気が付いた。
「これは・・・」
「おもしろい!」
冬の印象からあまり期待していなかったのだが、多彩なムーブを駆使して(しなくとも登れるが)登る楽しさがここにはあった。
ハング帯は荷物を背負っているため、見た目よりも大きく感じるが、それも技術で解決できる程度だ。
2ピッチ目、加藤リード。
出だしから細かいホールドを拾って登るが、見た目よりもずっと傾斜が強い。古いビレー点があるが、それを乗越す凹角部分が悪く、A0も可能だが、そこまでせずともムーブで解決でき
る。
ここの1ピッチ目、2ピッチ目が核心だと思うが、要所にペツルのハンガーボルト(しかも、ケミカルアンカー)があるので安心してムーブを楽しめる。
3ピッチ目は再び久野がリード。そして、この時ようやく隣の南稜で事故があったことに気が付く。
5bほど登ったところで、ヘリが飛んできた。そして何か言っている。
「・・・・してください」 よく聞こえない。
天気が良く、テレビ局の撮影で、手を振ってくれとでも言っているのかと思い、手を振ったのだが、それでも何か言っている。
「・・救助・・・ださい」 なに!救助するだと!
よくヘリを見ると、確かに長野県警のヘリだ。我々を救助しにきたのか?
「大丈夫だから、救助しないでくれ」と叫んでも聞こえるはずがないので、手で合図する。でも、日本の場合どうやって合図するんだ?
とりあえず片手だけをあげて大丈夫だということを伝える。するとヘリが去っていった。よかったよかった。
しかし、1分もしないうちにまたヘリがやってきた。そして今度ははっきりと聞き取れた。
「救助活動をするので、セルフビレーを取って動かないで下さい」
とりあえず数b登ると、しっかりした残置ハーケンがあったのでそれでセルフビレーを取る。
登っている向こう側でヘリが救助活動をしているようだが、なかなか上手くいかないらしい。セルフビレーを取って10分ほどすると、ガスが出てきて、ヘリが近づけなくなってきた。ヘリは岩
場の近くにいると危ないので、ガスのないところにはなれて待機している。まだ救助ができないらしい。
しかし、僕らはいつまで止まっていればいいんだ?大同心の真ん中で。
さらに10分程待ったが、さらにガスが濃くなってきたので、ヘリは近づけないと判断して登り始めた。いずれにせよ、救助できていないのなら、少しでも人手が必要なはずだ。
4ピッチ目は加藤がリード。ここも立体的なクライミングで難しくはないが、高度感、景色は相変わらず最高だ。特にドームのトラバースはちょっと恐いくらいだ。
さて、最終ピッチ、ドームの取り付きに着くと、長野県警の隊員一人と事故パーティの一人が、救助活動を行っているところだった。
ヘリで引き上げられず、しかたがなく隊員一人を降ろしたようだ。
隊員の櫛引さんはヘリでの救助を考えており、ガスが晴れるのを待つそうだ。確かに、まわりはガスで真っ白だが、ヘリで救助できるならそれに越したことはない。
とりあえず手伝うこともなさそうだが、もしかしたら人手がいる事になるかも知れないので、いっしょに待機することにした。
しかし、時間が経てどもガスは一向に晴れそうもなく、ヘリは燃料補給のためか帰ってしまった。
時間ばかりがどんどん過ぎていき、日もかなり傾いてきた。
そして、とりあえず、要救助者を大同心の頭に引き上げる準備だけはしておくことにする。
5ピッチ目、久野リード。
大同心の顔には、さすがに年のためか小皺が二つあり、ハングとなっている。高度感のあるフリークライミングでこれを越えるのだが、この時期、陽がかげると、一気に手が冷えてきて感
覚が無くなってくる。岩は昼間のうちに暖められているため、触ると温もりを感じるのだが、冷えて感覚のない指が暖まると、逆に強い痛みを覚えて、かなり辛い。
このピッチ、5.9程度で難しくないのだが、とにかく指が痛かった。
大同心の頭に出たのは15時30分頃。登攀時間は3時間ほどだった。待ち時間を抜けば2時間ほどだ。時間もなかったので速く登ったつもりだが、3〜4時間もあれば十分に登れるだろ
う。
大同心の頭で一人でさらに30分待機。ヘリを待ち続ける。
しかし、ガスは一向に晴れそうもなく、ヘリでの救助を諦め、引き上げて、小屋に収容することにする。
櫛引隊員、他パーティの一人、加藤という順に登ってもらい、3分の1システムで引き上げの準備をする。要救助者は足を怪我(開放骨折だった)しており、彼一人を引き上げるわけにはい
かないので、櫛引隊員が彼を背負い、二人を引き上げることにする。
プーリもないし、ロープも岩に擦れたままなので、かなりの摩擦があるだろう。3人で引き上げられるか?
櫛引隊員の技量が問われるところだ。上手く壁から離れるようにしてもらえばかなり楽に上がるのだが・・・。
もし上がらなければ、9分の1システムで上がるだろうが、これだと時間が掛かりすぎる。10b引いて、1bしか上がらない。25b上げるには250bも引かないといけない!
とりあえず引き上げの準備をして、櫛引隊員と確認しあい、彼に降りてもらった。その間、引き上げの支点の補強やバックアップを取り、引き上げ開始の合図を待つ。
日も沈み、もう引き上げをしないといけない頃、助っ人4人がヘッドランプをつけて上がってきた。茅野警察の隊員1人と遭対協の3人だ。
彼等の到着を待って引き上げを開始した。
案の定、ロープが岩に擦れて全くびくともしない。6人で引いているのにだ。久野はしかたがなくロープにオートブロック(マッシャー)をセットし、ハーネスに連結。それで引くことにした。
引き上げはビレー点に僕が一人と、大同心の頭に5人で行ったのだが、あとで聞いたところによると、上はただの綱引き状態、つまり手でロープを握って引いていたそうだ。これでは引け
るはずないよ!
ようやくロープが引けるようになり、徐々に上がってきた。引き初めから20分ほどでようやく大同心の頭に到着。
その後、大同心の頭から主稜線、さらに硫黄岳山荘まで交代しながら背負い、小屋に到着したのは21時30分でした。
怪我した人は怪我の痛みもさることながら、寒さもこたえたようで、おそらく低体温症もあったのではないかと反省しています。あの時、気温はマイナス3〜5度ほどで、ザックの中の水が
凍っていました。そんな中、体を動かすことができなければ、かなり寒いはずですし、骨折していれば、体温の調整も上手くできていなかったのではないだろうか。
翌朝、怪我した人は小屋からヘリに乗って病院に運ばれました。
我々も、おまけでヘリに乗せてもらい、怪我した人には悪いですが、ちょっとラッキーでした。
先にも書いたとおり、大同心でのフリークライミングはかなり楽しいものです。しかし、ゲレンデとは違い、事故をすればかなり大事になります。また、八ヶ岳の岩は元々脆いので、技術だ
けではどうしようもない面もあります。技術を磨いて山の知識をしっかりと持って、取り付いて下さい。
大同心のガイド山行は一年中募集しています。冬季は人工登攀を含んだ冬季登攀。春から秋にかけてはフリークライミングです。どちらのシーズンも全く別の顔を持った壁です。
特に初夏はアプローチの大同心稜は八ヶ岳の中でも最も花の多い場所ですし、壁を抜けてからの大同心の頭付近も同様です。
ゲレンデや人工壁でしっかりと練習し、八ヶ岳を遊び尽くしましょう。
山教室、クライミング教室を行っています |